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19 新たな謎と、勇者の修行(訂正、しごき)

 旅が続くと疲労が溜まっていく。そのために、比較的穏やかな村で一日休みを取ることになった。

 村の名前はエンテ。魔族の被害にあっていない、珍しい村だった。ディリアさんと二人で村の瘴気を確認して、ないことに驚いた。

 ディリアさんが驚いて村人達に尋ねると、村の人から。


「ああ、それはきっと、前の勇者様が置いていかれたクリスタルのおかげでしょう」


 という返事が返ってきた。

 前の勇者といっても、二年に一度の大会と勇者選定は最近まで行われていたため、ディリアさんが知る大会で最後に勇者になった人かと尋ねると、そうではなく前の魔王が現れたときに封印してくれた、勇者のことだという。

 それに驚いてディリアさんは私を引っ張った。


「カリンさん、あなたいったいなにをしてたんですか!?」

「あ……えーと、確かいくつかの村にクリスタルを置いてきた覚えが……」

「それは分かりますが、どうしてこの村のことを覚えていないんですか!?」

「だって名前とかいろいろ変わってるし、あの時はそこまで余裕なかったし。ってか、そもそもそのときのクリスタルが、いまだに効果があるなんて思うわけないでしょう!?」


 ひそひそと、側から見ればかなり怪しい会話を繰り広げる。


「確かにそうですが、隠したいのならどうしてそんなことをするんですか!」

「だからさっき言ったように、当時はお守り程度で危なさそうなところにおいてきただけですってば。いまだに効力を持っているって聞いたこっちが驚いてます!」


 力を使うアイテムは、身につけて使うのが主だけど、自分の力を染みこませて遠隔操作することもできる。でも、それは力の持ち主が生きている間で、しかもその力がアイテムの中で尽きてしまえばそれまでだ。

 二百年もの間、ずっと保っていられる力の入ったアイテムなんて知らないし、そんな力作を作った覚えもない。

 頭を左右に振る私に、ディリアさんはため息をついてから村の人にそのクリスタルを見せてほしいと頼んだ。


 村の人は快く受けてくれて、ディリアさんは招かれるよう家の中に入っていく――と思ったら、私の服を引っ張っている。引っ張りなおすと、ディリアさんは振り向いて、自分のものかどうか確認してくれという視線を送ってくる。仕方なくディリアさんの後についていった。

 見せられたクリスタルは占い師が使う水晶球のような大きさだった。とてもじゃないけどブレスレット(本当は数珠?)に使っていた水晶のサイズじゃない。どうなんですか? せっつくディリアさんに。


「あのですね、魔王を倒す旅をしているのに、あんな馬鹿でかいクリスタルを持ち歩くのがどこにいると思うんですか!?」

「そ、それもそうですね。でも……」

「だいぶ前のことみたいだし、どこかで話が食い違ったんですよ、きっと」

「そうかもしれませんね」


 二百年前の話なんて、もう昔話に入る類のものだ。言い伝えられている間に、少しずつ変わっていっている可能性のほうが高い。

 ただ力を保ち続ける、あのクリスタルは気になったけど。



 ***



「相沢!」


 外に出て冷たい水でももらおうかと思った矢先、蒼井くんに声をかけられた。


「なに?」

「いや……休みの日に悪いんだけど、力の使い方を教えてくれないか?」

「力の使い方?」

「相沢に言われて、それなりにイメージしてみるんだけど上手くいかなくてさ。だから、その辺教えてくれ!」


 と、手の平をあわせてお願いされた。

 蒼井くんとは少し前から、少しずつ打ち解けられた感じで、少しずつ会話が増えていた。


「いいよ。でも暴走したら困るから、少し場所を移そうか?」

「ホントか? 頼むぜ、相沢!」


 さっきまでの気まずい表情がなくなって、蒼井くんは人懐っこそうな笑顔で喜んだ。

 ああ、こういうのが女の子が蒼井くんを気に入るのかな。すごくイケメンってわけじゃないけど、顔立ちはいいほう。で、人見知りをしないで誰とでも話をして、楽しいときは無邪気に笑う。どちらかというと弟にしたいキャラ――という感じ。

 私の場合、こっちでの一年があるから、本当はみんなより一つ上になるんだよね。それもあるのかな? 見捨てておけないって思ったのも。なんだかんだ言っても一緒にいるし。


「なんだよ、相沢」

「ん? なにが」

「いや、なんかニヤニヤしてるぞ」

「そう? それはきっと蒼井くんのせいだよ。蒼井くんって見てたら犬っぽいなって思ったから、つい……」


 黙っていようと思ったけど、意地悪く、思ったことを口にした。

 だって、人間なら弟。それ以外なら犬みたいなんだもの。


「なんだよ、それ?」

「ん? かわいいってこと」


 瞬間、蒼井くんの顔が真っ赤に染まった。

 やりすぎてしまったか。さすがに、高校一年生の男の子にかわいいはなかったかな。ここでの一年間も年齢に入れるとすると、みんなより上になるんだもの。話してみると蒼井くんはかっこいいというより、かわいいと思うんだからしょうがないじゃない。


「とととととにかく、行くぞ」

「はいはい」


 照れた蒼井くんはこれ以上言われたくないらしく、どもりながら話を元に戻した。でもやっぱりその姿がかわいく思えて、くすくす笑ってしまった。

 同時に、自分の蟠りのせいでみんなをちゃんと見ていなかったことに気づいて「ごめん」と呟いた。その声は小さくて、蒼井くんには届かなかったみたいで、少しほっとした。



 ***



「じゃ、早速教えてくれよ」


 村から外れて人が来なさそうな森まで行くと、蒼井くんはやる気満々だった。さあやるぞ、という意気込みが感じられる。


「うん、でもその前に、蒼井くんの剣を見せてもらってもいい?」


 蒼井くんは勇者にと特別に作った剣を持っている。最初から作ったのなら蒼井くんが一番使いやすいだろうし、元あったものでも多少カスタマイズしてあるはずだ。

 蒼井くんから剣を受け取って剣を見ると、やっぱり装飾過多だなと思う剣を渡される。ついた装飾類のせいか、普通の剣より重い気がする。


「ねえ、これ重くない?」

「そうか? 確かに竹刀に比べりゃ重いけど、こういったのと一緒にするのが間違いだろ」

「そりゃそうだけど……蒼井くんって思ったよりアバウトなんだね」

「悪いかよ」

「ううん、いい意味で言ったんだよ」


 蒼井くんに許可をもらって剣を鞘から抜き放つ。すると、鞘が装飾過多らしくて、剣のみになるとさほど重みを感じさせない。……っていっても、私が持っているのよりかなり重いけど。

 剣自体に風を象徴しているのか、薄い青緑の大きな宝石が剣首のところにはめ込まれていた。それ以外に鞘についている宝石は力の増幅ができるようなアイテムじゃなく、普通の宝石。

 なんていうか、ガチガチに風の力のみ増幅といった感じ。これじゃあ超能力のようなもの、といってもいまいち分かりづらいだろうね、と納得してしまう。


「どうした?」

「ううん、あのね、蒼井くんが風だと思い込んでるみたいで、この剣には風用のアイテムしかついてないみたい。でもこれだけ大きいし、ある程度は他のも使えると思うんだけど……」

「え、だって俺、風だって言われたし、なんの問題があるんだ?」

「だから……本当は風だけじゃなくて他の力だって使えるんだよ。超能力っていったらどんな力があると思う?」

「テレポートだろ、それに……サイコ…なんだっけ、物を持ち上げるやつ、んで、透視とかもそうだよな。他には……」


 私の問いかけに、蒼井くんは考えながらポツリポツリと思いつく単語を羅列していく。


「うん。その中に風とか火とか、そういったのを連想させるものってある?」

「…………ねえな」

「そう、ないんだよ」


 その後、超能力のようなものといったけど、厳密には違うんだよと説明する。

 それでも、どういう風に使いたいかは自分の考え方次第だから、こんなことはできないかなとか想像するのも一つの方法だと説明した。


「蒼井くんは風を使って戦うとしたら、どうやったら一番効果的にできると思う?」


 尋ねると、蒼井くんは考え始めたのか腕を組んで首を傾げる。

 あまりに考えすぎてかなり傾きかけた頃。


「吹き飛ばすとか。あとは……うう、あんまり思いつかねぇよ」

「でも、蒼井くんは無意識には使ってるんだね」

「え?」

「だって、お城で私とやったとき、蒼井くんは風の勢いを利用して突っ込んできたじゃない?」


 さらりと言うと、蒼井くんはものすごく驚いた顔をしていた。本当に無意識でやったんだね、蒼井くん。

 でも無意識でそれができるなら、意識してやったら結構な力になるんじゃないのかな。だったら、ディリアさんが蒼井くんを選んだのは間違いじゃないんだね。

 それから、風といってもそよ風のようなものから突風、竜巻、鎌鼬――さまざまあるから、その場で必要なものを考えればいいよ、説明した。


「たとえば、剣に石がくっついてるから、剣に風をまとわせて剣圧で相手を斬ると同時に吹き飛ばしたり、風で渦作って真空状態にしてそれを飛ばしたり」

「鎌鼬か」

「うん」

「あと、危ないってときは、相手の足元を風でさらって姿勢を崩すのも手だよね」


 とりあえず思いつく――というか、昔使った手を思い出していくつか話すと、蒼井くんは感心した顔をして。


「相沢ってすげぇな。ってか、よくそんな手をポンポン思いつくよな。なんか、最後のはちょっと卑怯な感じしたけど」


 たぶん、別に悪気があって言っているわけじゃあないんだろう。

 でも、その後もヴァイスさんに教わってたから剣の稽古って感じだけど、私の場合、いろんな手で狙ってきそうだから、すごいスパルタで怪我しそうとか言うんだよ!? 鬼教師みたいだって。

 教えてもらうのに、もう少し考えてもの言おうよ、もうっ!


「……ほほーう。力の使い方を教えてほしいと言ったのは蒼井くんなのに、そういうこと言うんだ? じゃあ、実践やってみよっか。その、鬼教師と手合わせすれば、少しは上達するでしょうしねぇ?」


 嫌味と笑みを交えて言うと、蒼井くんは「やべっ」と慌てる。

 うん、でももう遅いんだよね。みんなからすれば“敵とみなしたものを斬る剣”を抜き放つ。

 蒼井くんは敵でもないし、この剣は私の言うことを聞いてくれるけど、それを知っているのはディリアさんくらい。だから、私が蒼井くんに向けて剣を振るい始めたのを見て、蒼井くんは本気で私を怒らせたと思ったようだった。



 そうして日が暮れる頃まで、自称:蒼井くんの特訓。

 でも側から見れば、一方的な蒼井くんいじめが続き、最後にはパタリと倒れた蒼井くんの姿を上から見下ろした。

 鬼教師とか、スパルタとか、要らぬことを言うからそういうことになるんだよ、まったく。

だんだんカリンの隠していた性格(本性?)がじわじわ出てきているような気がする;


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