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16 新たな魔王

「えーと、とりあえず……こんにちは?」


 最初に挨拶は基本でしょう、ってことで挨拶する。

 それにしても眩しい。サングラスほしい。早めに話をつけよう。


“これって、わたしたち、に?”

“ちがうんじゃない?”


 声をかけるといっせいにこっちを見て、それから勝手に結論付けられた。決め付けるの早いよーっ!


「待って待って、キミたちに話してるからっ!」


 そりゃ話しかける人がいなかったみたいだけど、火に向かって話しかける人はいないから――とツッコミを入れたい。

 でも眩しくて目がおかしくなりそう……と、思った瞬間、闇をサングラスみたいに使えばいいんだと気づく。日食を見るときみたいに、薄くて黒い半透明のプラスッチクみたいなのを想像すると、火の精霊を見るのに眩しくなくなった。


「えっと、火の精霊で、いいんだよね?」

“うん”

“みえる?”

「見えるよ。手伝ってもらいたいことがあって話しかけたんだけど……いいかな?」

“できることなら”

「ありがとう」


 見てすぐに手伝ってといったのに、火の精霊は素直に頷いてくれた。

 風と土の精霊たちはかなり友好的だったけど、性格を考えると、火の精霊と難しそうな気がしたけど、そうでもなかった。おかげで長々と説明をしなくて済んだことには感謝。

 とりあえずここの瘴気だけを焼いて消すことはできないかと尋ねてみると、火の精霊たちは少し考え込んでから、“むり”と答えられてしまった。


“ここまでなると、わたしたちだけじゃ、むり”

“ほかのものまで、やいちゃうよ”

“まぞくだけなら、なんとかなるけど”

“ごめんね”

「そっか。じゃあやっぱりクリスタルを使って浄化するしかないのかな?」


 『忌み地』を火で浄化するとなると、全てを焼き尽くすことになってしまう。そこに漂う瘴気を含んだ大気も、土地も、生えている草木もすべて。

 さすがに無謀な策だったか。クリスタルに代わる浄化方法がないかなと思ったんだけど。

 あ、でも。


「魔族とかならできるの?」

“うん”

“それなら”

「じゃあ、力を貸してほしいとき、貸してくれる?」


 火の精霊はこっちをじっと見た後、“いいよ”と了承してくれた。

 それから呼びやすいように名前をつける。


「で、呼ぶときに困るから……グリューエンって呼んでいい?」

“いいよ”

“うん”


 こっちは快諾。よく分からない反応。

 とりあえずこれで火の精霊の力も借りれることになったので、力の幅が広がりそう。やっぱり攻撃的なものは火を連想するからかな?


「じゃあ、これからよろしく」


 握手はできないので、手を振ってさよならした。


「さて、んじゃあ浄化を始めますか」


 気合を入れ直して、制服の内ポケットから元の世界ではよくお守りとして売っている水晶のブレスレットを取り出した。

 霊感なんてものがあったせいで、身を守るためにと元の世界から持っていたブレスレットは、こっちでもらったクリスタルより自分に馴染んでいる。

 それを手に持って前にかざし、この地が草木が生えてどこにでもある心和む森をイメージした。そうして目を閉じてしばらくの間、イメージし続ける。


 肌にピリピリとくる瘴気がなくなったのを感じると、ゆっくりと目を開けた。

 目の前には瘴気のなくなった大地と、そしてそんな大地から芽吹いた小さな草の芽がちらほらと見える。


「エルデ、来て」


 地の精霊がいなくなると、『忌み地』ではないけど、土地は荒れていくといったので、だめもとで呼んでみた。コロコロとした地の精霊が現れる。


「ここをお願いしてもいい?」


 現れた数人?に頼むと、彼らはゆっくり頷いた。

 これで少しずつでもこの地は回復していくかな、と思うと、やっと一息つけた。

 隣で横たわっているディリアさんに目をやってから、まだ起きそうにないと判断した。彼女の場合、治療の力は効かない。本人の力の回復が必要だから。

 いつになったら目覚めるまで回復するだろうか、と思っているとリートたちが教えてくれる。


“かりんがさわっていればいいよ”

「は?」

“さわることによって、いしによって、すこしなら、ちからのいどうができる”

「なるほど」


 ディリアさんが起きてくれなければみんなのところには戻れないもんね。

 そっとディリアさんの手に自分の手を重ねる。これで力の移動ができるのか分からないけど、私からディリアさん何かを渡すイメージをする。一緒に、ディリアさんに纏わりつく瘴気の浄化も行った。

 ふわふわとしたピンク色の髪にきれいな顔立ちは、元の世界ではアニメのヒロインででてきそうな感じ。意識のない今は見下したような視線はなく、素直にきれいだと思う。


「……はー、駄目だなあ」

“なにが”

“どうしたの?”


 リートたちが独り言を聞いて好奇心丸出して尋ねてくる。

 それに対して、「ちょっとね」と笑って誤魔化した。


「それにしても、『忌み地』ひとつでこれかあ。この先大変そう」


 旅に出て二日目で『忌み地』。今回はディリアさんの力が必要とされていて、蒼井くんの出番じゃなかった。瘴気相手じゃ勇者は必要ない。

 ……ん? なんか…嫌な予感がする。


「ねえ、リート。今回の魔王ってどんなのか分かる?」


 魔族の地にいけないのは分かっている。それでも多少なりとも情報がないだろうか、ともう一度尋ねた。


“まおうは、よく、わからないけど…”

“かりんたちがでてから、こういったひがい、おおくなった”

“いままでは、ほかのばしょばかり、だったのに”


「じゃあ、今まではあまり危機感なかったけど、勇者召喚で身の危険を感じたから、勇者の行く手を阻もう――ってことかな?」


“わからない、けど…”

“あたらしい、まおうは、こうせんてき、って。にげてきた、つちのせいれいがいってる”

“わたしたちのなかも、おなじようなこと、いってた”

「好戦的? ちょっと待って」


 リートたちの話を整理するために、情報を一時ストップさせる。

 今まで被害はこの国よりも他の国の点在しているところのほうが被害が強かった。

 あと、これは以前にリートたちから聞いていた話だけど、そのせいでこの国は勇者召喚を出し渋っていたらしい。この世界にいる人よりも強いものを呼べる召喚陣は、この国にとって外交上、大事な切り札だから。

 でも業を煮やしたほかの国が、同じような召喚陣を作り始めたと聞いて、慌てて勇者召喚をしたという。他の国に、同じような召喚陣があったら、この国に残るのは魔族の拠点に一番近いという不利な点だけだ。


 そんな思惑の結果、蒼井くんはじめ数人が呼ばれたんだけど、それからこの国の城から魔族の地までの間に被害が急に増大した。

 しかも瘴気は城の内部の人まで蝕んで、皆冷静な判断ができないよう、少しずつ狂い始めている。

 あまりにも早く、今回のように、すでに魔族はいなくなり『忌み地』が残っているところがいくつかあるみたい、とリートたちが呟くのが聞こえた。


 ……って、この状況、本当にやばくない?

 この地を浄化するだけでディリアさんは倒れちゃうし、浄化はできないままだったし。

 なにより、こんなのが続いたら、ディリアさんの力の消耗だけで、蒼井くんの経験値が上がらない。蒼井くんをはじめとするこの勇者一行は、まだ完成された強さを持っていない。


 そんなところに、魔王が現れたら――?


「ディリアさん、起きて! 早く起きて!」


 いまだ目覚めないディリアさんの体をゆすって無理やり起こす。

 小さく「ん…」と声が聞こえて、目覚め始めているのに気づく。さらに揺さぶって無理やり起こした。


「ディリアさん!」

「…あ……カリン、さん…?」


 まだちょっと焦点が合わない目で私をみる。


「ここは…」

「村の人に言われた『忌み地』のところです」

「そういえば、浄化しようとして……」


 意識がはっきりしてきたのか、ディリアさんは頭を押さえながら起き上がると、周囲を見回した。


「うそ……」


 周囲の光景に信じられないようで、目を大きく見開いた。

 そういえば、最初に芽吹いた草は、今はかなり成長してる。やっぱりエルデがいるといないじゃ、差が出るのかな、と思っていると。


「これは……私が……いえ、ちがいますね。………………カリンさん、あなた……ですか?」


 状況把握は早いのか、ディリアさんは自分がやったという考えをすぐに捨てた。

 そのため私も隠すことなく、「ええ」と短く答えた。


「どうやったらこんなことが……?」

「まあ、ずっと身につけていたこれと自分の力で」


 と、水晶のブレスレットを見せた。

 ついでに「浄化は一番得意ですから」と付け足すと、ディリアさんの目がまた大きくなった。


「それより、ディリアさんにお願いがあります」

「な、なんですか?」


 隠しておきたかった自分の力。

 でも今はそんなことを言っている場合じゃない。

 私は、誰一人欠けることなく、元の世界に戻りたい。

 そのためには、魔王のところへたどり着くまでに、みんなが強くならなければならない。


「これから先『忌み地』の浄化は引き受けます。だから、それ以外にも魔族の被害などを聞いたら、それを受けてほしいんです」


 『忌み地』の浄化を引き受けるというのと、魔族の被害を聞いたらその願いをすべて受けてほしいと言われて、ディリアさんはとまどっているようだった。


「カリンさん、あなたはいったい……?」

「私は、元の世界で幽霊――こっちで言うと死霊といったほうが分かりやすいですかね。それを見ることができました。身を守るために、こちらで言う『浄化』の力も強くなったんです」


 これだけ見れば、どちらかというと私は剣を扱うより、巫女としてのほうが合っているだろう。

 けど、手渡されたのは剣だった。私の力の確認もなく。


「カリンさんのことは分かりました。でも、ならどうしてそういった願いを聞き入れろと言うのですか? 瘴気が見えるのなら、この状況がまずいことは分かりますよね?」


 ディリアさんの問いは、私の力を認めた上での問いだった。

 私も話すと決めた以上、自分の力を出し惜しみする気はない。だから、自分が思っていることを素直に口にした。


「確かに瘴気は人を蝕みます。でも、このまま進んでも、それでは魔王のところへ向かうだけで、蒼井くんたちは強くならないから」


 篠原さんと堤さんはイメージして力を使うことを覚え始めている。このままいけば、どんどん力に慣れていくだろう。

 でも、蒼井くんと大野くんは、ヴァイスさんに剣の手ほどきを得ているだけで、力の使い方まで習ってない。だから、剣の腕は上がっても、それを最大限にするための力をほとんど使えていないといっていい。

 でも実戦を経験すれば、おのずと必要になってくる。死にたくないと思えば、それだけでも力が増す。

 その説明をすると、ディリアさんは大きく目を見開いていた。


「カリンさん、あなたはいったい……」

「いったいもなにも、勇者召喚に巻き込まれた一人ですけど」


 他に何かありますか? と軽く問うが、ディリアさんはまじめな表情で。


「それは……違うと思います。どうして今まで気づかなかったか不思議ですが、最初に呼び出された時点で、あなた一人だけ信じられないほど冷静でした。今も、数人で行う浄化を一人でこなし、先のことまで考える余裕――あなたは、いったい何者なんですか?」


 瘴気を取り払ったせいか、物事をしっかり考えられるようになったのだろうか。

 ディリアさんは今までのことを分析しながら、真剣な表情で私に尋ねた。

タイトルがバラバラでんがなーと思いつつ;

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