01 せっかく戻った日常は…?
私は課題を担任に提出し終わり、カバンを取りに教室に戻った。
開け放れたれた廊下の窓から入ってくる風は、まだ少し熱気を含んでいる。九月の終わりならこんなものか、とその風を受けながら歩く。
普通の学校、普通の生活。すれ違う子もこの日常的な平和が崩れるなんてこと、露ほどにも思ってない――ふ、とあることを思い出し、そんなことを考える。
けれどすぐにその考えは捨てた。もう――考えても仕方ないことだ。頭を軽く振って現実に戻る。
階段を上って二クラス分歩いて教室の戸を開けようとして、タイミングが悪かった――と後悔した。
中にいて楽しそうに話をしていたのは、クラスでも人気のある男子、蒼井隼人(あおい はやと)と、その隣にその親友の大野洋一(おおの よういち)と女子、篠原愛美(しのはら まなみ)、堤恵理(つつみ えり)――の四人だった。(って、説明が長いわ)
あまりお近づきになりたくないけど、不幸なことに私の席は件の蒼井くんの隣だった。
ふう、と分からない程度にため息をついて、それからなるべく気にしないように近づく。それを蒼井くんは目ざとく見つけ、
「あ、花梨(かりん)ちゃーん、どこいってたの?」
と、気安くのたまった。
ちゃん付けされて軽くムカつくのと同時に、篠原さんが軽く睨みつける。本当に分かりやすい顔で――と心の中で苦笑する。
「課題を提出するの、遅れていただけ。先生に渡してきたから帰るの。それじゃあね」
近づいて自分の席にあるかばんに手を伸ばした。
かばんを手にとって、一応声をかけられたので、軽く挨拶をする。
「相沢さん、大丈夫?」
今度声をかけてきたのは、大野くん。
大丈夫、というのは、私は今高校一年生なんだけど、入学するちょっと前に大怪我をして、三ヶ月以上休んでいたから。
入学前はもう少し明るい性格をしてたしね。クラスメイトはその辺知らないし、怪我の後遺症で辛いんじゃないのかな、って思っているみたい。
でも本当に辛いのは体じゃない。心のほうがあとまでしつこく残ってる。
すでに夏休みも終わって二学期になっているけど、だからこそ、その頃にはもう仲のいいグループは決まっていて、私の入る隙間はなかった。まあ、別に一人でも平気だからかまわないけど。
ただ、隣の席(あいうえお順)になった蒼井くんはそれを気にしているのか、何かと話しかけてくるんだけど――いかんせん自分がもてるのだと自覚してほしい。近寄ってくる女の子はかなりいるけど、今のところ蒼井くんから声をかけるのは私だけ、というはた迷惑なことになっている。
なにより、体の痛みより心の痛みのほうがきついんだけど……それは別の話なので割愛。
とりあえず、大野くんに「大丈夫」と短く返す。
すると、それが気に入らないのか、篠原さんが「怪我をするとみんなが大事にしてくれるのね」などとのたまう。
失礼な。先ほど心の痛みのほうがきついといったけど、体だって全治三ヶ月の大怪我だったのよ。初めの頃は寝たきりで体力は落ちるし、よくなってくればリハビリとかでまた苦労するし。そんな気持ちを少しは味わってみてよ!
……まあ、蒼井くんたちに声をかけられることに対するやっかみというのは分かってるんだけど。本人を目の前に言わないでほしい。
もっぱら身についた鉄面皮から、さらに取り繕った表情も消えていく。こうなるともうどうでもよくなって、カバンを持ち直してその場から立ち去ろうとすした。
が、急に床が発光して、足を出すのをやめてしまった。
「なっ!?」
「なにこれぇ!?」
「うわ!」
異常現象にそれぞれ叫びながら輝きを増した床を見ている。それは、光がある程度広まると、円を描き始める。
えーと、これってもしかして……?
私個人にするとこういう不思議なことにあまり心を動かされたりしない。なんというか、霊感というものがあるらしく、影のない人たちとか、二階なのに普通に歩いている人とか――そういったのを見慣れているせいで、霊現象は結構平気なんだけど。
でもこれは霊現象じゃない。
そう思っている間に、光が室内に満ちて一瞬にして視界が真っ白になった。いきなり無重力になる浮遊感、そしてものすごい勢いで引っ張られる。
光が収まったあと、一番最初に目にしたのは、どうみても外人サンな――というより、ありえない色をした(ふわふわピンク色の天然の髪に、紫色の瞳)、白一色を身にまとった女性。
その姿を見て、私は気を落ち着かせようとして、私と彼女以外の人を探そうとして、すぐ近くになんか嬉しそうにしている蒼井くん、大野くんと、驚いた顔をした篠原さんと堤さんがいた。
「はじめまして、勇者様――いえ、勇者様と従者の方々」
彼女は少しとまどったあと、さらりと言ってくれました。
視線の先は蒼井くん。どうやら彼が勇者決定らしい。
そして、残る私たちは蒼井くんのお付き――ってことか。
お決まりのパターン――異世界召喚。
王道パターン――魔王を倒すための勇者。
百歩譲って、一人じゃなかったことと、メインが自分じゃなかったってことだけはマシなのかもしれない。
でも、なにもかも出来すぎていて、私は苦笑するしかなかった。
読んでいると刺激されて書いてみたくなりました。
王道だけど外れてる…そんなのを書いてみたいです。