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マイノリティ青春グラフィティ  作者: 水稀リョウ
第4話
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第4話(5) そして

 映画館に着くと、葉月が唐突に打ち明けた。


「なーあたし来週日曜、誕生日なんやけど」

「え、そうなん? おめでとー」

「ありがと、ポップコーン食べたいな」

「しゃーない、それくらい買うたる」

「やったー」

 

 かわいいおねだりを受け、亜希が店員のお姉さんに注文を出す。

「アイスティSとウーロン茶Sと、ポップコーンM」


「塩ね」

「塩でね」

 横から付け加える葉月。

 亜希もお姉さんに念押しした。


「ロウソクも付けてもらった方がよかった?」

「はは店員さん困るからやめたって」


 そして注文の品を受け取ると、冗談を言いながらスクリーンへと向かった。

 

 

 ――この日観た映画は『マインドスケープ』。

 架空世界と現実とを行き来できる世界を舞台としたSFで、主人公が自身の構築した理想世界に溺れていく……という、理想世界と現実の錯綜、そして主人公の心の闇が複雑に入り混じる、難解な映画だった――


 ***


 映画が終わると、亜希たちはエンドロールの流れる中、他の観客に混じってぞろぞろとスクリーンを出た。

 二人は言葉少なに近くのドーナツ屋に入ると、ガラス壁に面したカウンター席に腰を下ろした。


「…なんか、すっごい難しかったなー……」


 葉月はグラスにストローを挿すと、はー…と溜め息を吐いた。

 

「最後コインぐるぐるしとったやん? あれって現実に戻ったってこと?

 それとも架空世界の中なんかな?」


 とグラスの中でストローを回す葉月。

 主人公が最後にどうなったのかを気にしているらしい。

 

 亜希はグラスに口を付けてアイスティを一口飲むと、考えて、口を開いた。


「…自分はそこの答えは、映画の中で語られてないんかなと思ったけど」


「どういうこと?」


 首を傾げる葉月に亜希は続けた。


「結局主人公はコインが回り続けるかどうかを見届けずに行ってしまうやん?

 主人公はもう、それが架空世界やとしてもいいと思ったんちゃうかな」


「そういうことを示したい結末やと思ったし、

 そうやとしたら『コインが止まったかどうか』を考えるのは無粋で、

 探したところでヒントも描かれてないかもな…と思った」


 そう亜希が説明すると、葉月はぱっと目を開いて笑った。


「…な、なるほどなー! 確かにそういう見方もできるかもな。

 えー、亜希どしたん? いっつもそんな風に映画観とるん?」

「考察するの結構好きやで」

「うわ、初めて亜希が年上に見えたかも」

「むっ」

「えー、また今度なんか観に行こ」


 二人は感想で盛り上がった後、ドーナツ屋を出ると、それぞれまだ見たいものがある、と一時的に別行動をした。


 亜希は文房具屋で、自分の欲しかったボールペンを探した。

 その時ふと、ガラスケースに目が留まった。


「あ、プレゼント用に包装してください」



「何買ったん?」

「ん、ちょっと」

 その後再び合流すると、二人はまた映画の感想を交わしながら寮へと帰った。


 ***


 二人は寮へ戻ると、結衣の部屋を訪れた。


「はい、おみやげ。結衣も行けたらよかったのにな」

「わーありがと。いいなーそんな面白かったんや」


 葉月からおみやげのドーナツを受け取り、喜ぶ結衣。


「あ」


 亜希は二人が話す横で、結衣の机の上に置かれた卓上カレンダーに目を留めた。

 8月9日に赤丸が振ってある。


「そういえば簿記1級の結果、来週月曜やっけ?」


 亜希がたずねると、結衣は自信無さげに頷いた。


「うん…でも自己採点で厳しかったからなー。葉月はいけてそうなんやろ?」

「うーん、多分…間違いが無ければな」


 結衣に振られ、葉月は控えめに返した。

 亜希はその様子を見ながら6月、試験を終えたばかりの彼女が笑って手応えを語っていたのを思い出していた。


『だってそれだけ頑張ったからな』


 ***

 

 その次の日曜、葉月の誕生日――

 

 亜希は葉月の部屋を訪ねた。

 コンコンとノックをする。しかし反応が無い。


《……あれ?》


「葉月出かけましたよ」

「矢野先輩」

「友達が誕生会開いてくれるって。遅くなるんじゃないですかね」


 廊下を通りかかった矢野先輩が、隣室の葉月が不在であることを教えてくれた。

 

 亜希は部屋に引き上げると、手に持っていた箱を机の上に置いた。

 シールのリボンの付いた、白い小さな箱。

 あの時買った、葉月への誕生日プレゼント。

 

《……明日でいっか。合格祝いにもなるし》

 

 今日渡せないのは少し残念な気もするけど、明日は簿記試験の合格発表だと言っていたから、ちょうどいいだろう。

 そう、思った。



 次の日、月曜の放課後――

 亜希は自室のベランダに出て、手すりから下の通りを覗いていた。


「あっ来た」


 葉月が歩いて来るのを見つけて、プレゼントを手に、部屋を出る。

 階段の踊り場へ行くと、ちょうど彼女が上り始めるところだった。


「おかえり」


 踊り場から声を掛けて、葉月を待つ。

 いつもみたいに「ただいま」と返してくれると思った。

 彼女が笑って顔を上げたところでプレゼントを渡そうと、待っていた。

 けど――

 

 すっ……

 

 葉月は顔を上げることなく、その横を通り過ぎた。

 自分の横を過ぎていく彼女の頬には涙が伝っていた。

 

 タンタン。すたすた。タンタンタンタン…

 

「…」

 

 

 亜希は後で矢野先輩から、彼女が試験に落ちたと聞いた。





第4話 END(サブタイトル無し)

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