第4話(4) 揺れる瞳
デート(?)当日――
「…デートって、荷物持ちのこと?」
亜希は肩に肩紐を何本も食い込ませながら、葉月の背中に不満を漏らした。
葉月にデートと誘われて訪れた梅田のショッピングモールのはずが、なぜかずっと彼女の荷物を持たされるだけの係をやらされている。
両肩のバッグや紙袋のみならず、腕にまで葉月のキープ中の服を何枚も持たされていた。
「そーやけど? 男は女の子のカバン持ったるもんやで」
「べつに男ちゃうけど?」
「はは、そーいえばそーやな」
《コイツ…ひとを都合よく男扱いして、こき使う気ちゃうやろな?》
禄にこちらを振り返りもせずあれこれと店の服を手に取り続ける葉月に、亜希は完全に不審の目を向けていた。
デートと言って誘ったくせに、葉月はいつもと変わらぬジーンズ姿で禄におしゃれもしていなかった。初めからこーいう魂胆だったのだ。
「…映画3時からなんやろ? もうちょっとゆっくり来てもよかったんちゃう?」
亜希はフン、と溜め息を吐くと、自分も葉月に背を向けて後ろのハンガーラックに手を掛けた。
自分は到底着ることが無いであろう、女性らしい切り返しの付いた淡いピンク色の襟付きシャツをチラ、と引っ張って、また押し返す。
「まーいいやん。女の子の買い物付き合ったれへん男はモテへんで?」
《コ、コイツほんま…!》
亜希は赤面しながら彼女の背に向かってぷるぷると震えた。
彼女に手玉に取られているようで恥ずかしさと腹立たしさが湧いてくる。
が、そんな亜希の我慢が限界になりそうになると――
にこ。
「――!」――ドキリ。
葉月はそれを見透かしたように振り返って亜希に近付き、ニコリと笑って亜希をドキリとさせる。
「ちょっとこれ、持っとって」ずいっ。
「!!」
……そしてかわいいフリをして結局、ずいっと荷物を押し付けてくるのだ。
「亜希もこんなかわいい子とデートできて嬉しいやろ?」
背を向けながら笑う葉月。
亜希は呆れたように溜め息を吐くと、彼女の後ろ姿を眺めた。
……相変わらず、調子乗っとんなぁ。
葉月はあれこれと服を手に取っては身体に当てていた。
彼女が動くたび、彼女の丸い頭からサラサラの髪がこぼれた。
その薄茶色の髪から透けて見えるキレイな横顔も
服の上からでもわかる線の細さも
蝶みたいにくるくると動き回る仕草も
そのひとつひとつが一々華奢で 亜希はそんな彼女を遠くから眺めた。
…―そら 調子にも 乗るわな――
「ごめんやけど、好みとちゃうわ」
「えー」
「性格のかわいい子が好きなんやよね」
「あ、ひど」
言い返してやると、葉月が振り向いて拗ねたように笑って、亜希も笑った。
そうやってこの友人との 軽口を楽しんでいたつもりが
「まー好きになられても 困るけど」
そう言ってふ、と笑った葉月の
伏せた長いまつげを見た時、 亜希の瞳が 一瞬、揺れた。
「亜希のもなんか選んだろか?」
「えっ」
そしてまたすぐに浮かされて。
二人でメンズの服屋に寄って。
亜希は葉月に選んでもらったジャケットを羽織りながら、二人並んで立つ鏡を覗いた。
「背ぇ高いからジャケット似合うなー」
細い鏡に半分だけ映る 自分より少し背の低いだけの葉月が言う。
その彼女の浮かべる 半分だけの笑顔を見て
亜希の中に何か 黒いものが湧いていく
――いつも――――余裕ぶっとる――――
「あっそろそろ映画始まるな」
葉月は何事も無かったかのように
時間を思い出すとまた笑った。
1回コイツの 困った顔、見てみたい――
「映画は割り勘やろな?」
「はは、出すって」
二人は時間になると映画館へと向かった。




