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マイノリティ青春グラフィティ  作者: 水稀リョウ
第4話
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第4話(2) 吉見

 

 翌朝――


「おはよう」

「あれっ? 思い切ったなぁ、亜希!」


 食堂で葉月と結衣に声を掛けると、二人がぱっと明るい笑顔を見せた。

 亜希はその二人の弾ませた声に、恥ずかしそうに笑顔をこぼした。


 昨日まで平凡に分けていただけの亜希の髪型は、後ろを短く刈り上げたものへと変わっていた。

 目にかかりがちだった前髪も後ろに向かって流して、額を大きく開けた。


 亜希は自分らしく生きる一歩を踏み出すことにしたのだった。


 ***


「ちょっと、そこの君! えっ早瀬さん?!」


 亜希は久々に寮長に男に間違われた。


「ふぅ。こりゃ『早瀬さん髪型変えたけど女の子です』ってビラ貼らなきゃいけないな」

「何の念押しですか」イラッ。


 ***

 

 亜希はその後、学校にも早めに向かった。


「えー、どしたぁん?! いーやん、こっちの方がいー」

 学校に着くなりアヤカにはしゃがれて、亜希ははにかんだ。

 

「おいおい早瀬さんどーしたん? 今さら反抗期かぁ?!」

「相下くんに言われたないけど」

 遅刻ギリギリでやってきた相下くんにもニヤニヤされながらいじられつつ、照れながら返す。


「おー早瀬、気合入っとるな。席つけよー」

「おはよう、似合うね」

 先生や隣の席の亮平くんも、新しい髪型を褒めてくれた。

 

 その日の昼休み。

 亜希はアヤカと公園のベンチで昼食を食べている時に、彼女にも思い切ってカミングアウトしたのだった。


「あーそうなん?」


 ドキドキしながら打ち明けた亜希に、アヤカはすぐに笑顔で返してくれた。


「全然大丈夫やでそんなん。高校の友だちにもおったし。言ってくれてありがとお」


 アヤカはそう言うといつものように亜希の腕をぽんぽんしてくれた。


 亜希はアヤカの反応にほっとすると、空を見上げた。

 7月の上旬――亜希の頭上で、青々とした木々の葉が、夏の白い日差しを受けてキラキラと反射していた。


 葉月たちへのカミングアウトを済ませた亜希の心は、昨日まで悩んでいたのが嘘のように軽くなった。

 親友たちの反応は自分が想像していたよりもずっと温かく、何でもない悩みのように思わせてくれた。

 

《……気にしすぎとったんかな》


 ***


 その日の放課後、亜希は足取り軽やかに寮へと帰っていった。


 スタスタ。



 スタスタ。


 亜希が寮の近くまで来ると、前から見覚えのある寮生がやってきた。

 すれちがいざま、亜希はペコ、と頭を下げたが、相手は素通りした。

 

 と、通り過ぎる時、彼女から

 ハラ…と紙切れのようなものが道端に落ちて、亜希は足を止めた。


「なんか落ちたけど――吉見さん」


 振り返り、声を掛ける亜希。


 …ピタ。えんじ色のジャージを履いた小柄な女が、背を向けたまま立ち止まった。

 

 いつも高校だかの体操着と学校ジャージを着ている、同じ階に住む亜希と同学年の、他校の女の子――確か208号室に住んでいる――吉見えりさんだ。

 亜希は彼女に声を掛けると、足元に落ちた物を拾おうと道端に屈んだ。


「……あー」

 声を掛けられた吉見は、後ろの亜希をゆっくりと振り返ると、低い声を出した。

 毛先の不揃いな前髪の掛かる、まぶたの虚ろに窪んだ目で、落とし物を拾う亜希に、じとっとした視線を向ける。


 その視線に気づかぬ亜希。

 拾ったものを手に取って立ち上がると、驚いて声を上げた。


「えっ…何コレ?!」


 寮の脱衣所で撮影されたと思しき盗撮写真だった。


「勝手に見んなよ」

「あっ!」

 吉見は亜希に近寄ると、横から落ち着いた様子でひょい、と写真を取り上げた。


「おい、それ盗撮――!」

 すぐに吉見に詰め寄る亜希。が、

 吉見は上から睨み付ける亜希に顎先を上げて鋭い眼光を向けると、ドスの効いた声で静かに亜希を牽制した。

 

「――静かにせぃ。お前が女好きってバラすぞ」

「…!!」


「な、なんでそれを?!」ずざざっ!

「部屋の前通ったら聞こえた。あんなデカい声でアホかお前は」

 キョドって後退る亜希に吉見は冷静に突っ込んだ。


 吉見はニヤリと笑うと、周囲に人目が無いことを確認しながら、顔の横で写真をぴらぴらと振ってみせた。

 

「これ、結構いい小遣い稼ぎになるんよな。お前も売って欲しかったらいつでも言えよ。ほれ、美脚の久住もあるぞ」

「い、いらんわっ!」


「…ふうん。無駄に真面目なヤツやの」


 亜希の返事に意外そうな顔をする吉見。が、またすぐにニヤと笑った。

 

「……じゃあ、とっておきを売ったろか?」


 ――ざわ。

「…とっておき?」


 ジャージのポケットにゴソ、と手を突っ込む吉見に、亜希の胸がざわついた。

 吉見が不穏に胸の名札を揺らす。

 吉見は1枚の写真を2本の指で挟んで取り出すと、勿体ぶるように、亜希に裏側をかざした。

 

「ガードが固く滅多に新作が出ない代物…! 本寮予約ランキング、ぶっちぎりNo.1の――!!」


 吉見のセリフに亜希の顔色がサッと変わった。

「おい…それって――まさか…お前……!」


 ――葉月――!


 脳裏に葉月の顔が浮かび、一気に怒気が立ち上る――!


「ふふふっ!」

 怒りの形相で睨み付ける亜希の目の前に、吉見は写真の表を突き付けた。


 ビシィッ!


「魅惑の熟女、寮母ブロマイドじゃーっ!!」


《ずこーっ》


 吉見が得意げに表返した写真には、頬に手を当てて笑顔でポーズを決める寮母が写っていた。


「も、もっと他になんか…あるやろーっ?!」《寮母もノリノリやんけ!》

「熟女の魅力がわからんのか?」


「まぁええ。誰かにしゃべったらバラすからなー」


 吉見はそう言い残すと、写真をぴらぴらと振りながら去って行った。

 

「~~~!!」


《…とっ、とんでもないヤツに弱みを握られてしまった…!》

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