第1話(3) 転機
亜希はもちろんただ手をこまねいているわけではなかった。
出会いを得るべく日々、努力していたのだ。
その日の夜も、亜希は自室でノートパソコンを開き、こっそりとあるサイトを見ていた。
女性の同性愛者のための、『女性専用の出会い掲示板』――
かちっ、かちっ。
「大阪、兵庫、難波、天王寺、梅田……も~~、いつ見ても大阪ばっかやん!」
亜希は日々この掲示板を覗いては、自分と希望の合う相手がいないかと検索していた。……が、自分の住んでいる田舎県での募集はほとんど無く、今日も嘆くだけだった。
「まーべつに普段の生活でも、キレイなお姉さんとは出会えるけどさ」
と、居酒屋で見かけたキレイなお姉さんを思い浮かべる。
だがノンケ――異性愛者との恋は不毛だ。
中学の時も、高校の時も、結局打ち明ける勇気が無く、時間を無駄にするだけだった。
いまは同性愛者専用の出会い掲示板で、一刻も早く失われた青春を埋め合わせたいのだ。
亜希は「それやのになぁー」と頭の後ろで手を組むと、椅子にもたれかかって溜め息を吐いた。
「田舎じゃ出会いのチャンスが無さ過ぎる。あーあ、こんなんやったらあのまま、大阪の大学行っとけばよかったなぁ」
と、亜希がぼやいた、その時――
「でっ、出会い掲示板?!」
突如横から父がぬっと覗き込み、画面の文字を読み上げた。
「おっ、お父さん?!」
慌ててノートパソコンを閉じる亜希。
「もう、ノックしてーよ!」
「お前……いくら年頃でも、不健全な出会いはいかんぞ」
「そそ、そんなんとちゃうよ!」
父に白い目を向けられるも、どうやら同性愛者同士の……とまでは気付かれていないらしい。
が、ほっとしたところで、亜希ははたと気付いた。
父親がわざわざ部屋に来るなんて、いい話なワケがない!
「こら、どこ行くんやっ!」がしっ!
「うげっ!」
案の定、逃げ出そうとするも父に襟首を引っ掴まれ、椅子に座らされたのだった。
「お前も高校卒業してもう2年……いつまでもフラフラしとるわけにもイカンやろ。春から専門学校へ行ってこい」
父はそう言うと、亜希に1冊のパンフレットを突き出した。
「ええか亜希! お前がどんなに嫌がろうとも――あっ!」
亜希は父の手からパンフレットを奪い取った。
その表紙を、食い入るように覗き込む――
亜希の目に、『KYO-KARA会計専門学校』と題されたその下の、『大阪校』の文字が輝いていた。




