第3話(8) 傍観者
翌日。研修の2日目は午前中、屋外でスポーツ大会が行われた。
「いつもの調子出んかったな。ほんまはエッ◯ェル塔シュートできるんやけど」
「また今度頑張ろお」
早々に出番を終えた亜希は、アヤカと適当に屋外を散策していた。
二人でグラウンドを離れ、木々の並ぶ端を、ぶらぶらと歩いていると……
「あ、昨日のバンドの子ぉ。何やろ? あの騒ぎ」
と、アヤカが、向こうの建物の方に視線を向けた。
亜希も目を向けると、葉月が向こうの建物の前で、男子たちに囲まれていた。
「田村がんばれー」
「男を上げろー。ピーピー」
一人の長身の男が葉月の前に立ち、その周りを仲間と思しき男たちが囲んでいる。
「わーもしかして告られとる?」
アヤカが彼らに少し近寄って、足を止めた。
亜希もそれについていき、少し離れたところから葉月たちを眺めた。
「…」
「昨日の発表会で一目惚れしましたっ! 付き合ってくださいっ!」
「わーっ」
長身の男が告白し、仲間たちが歓声を上げた。
「わーどおするんやろ」
「…」
アヤカが胸に手を当ててその様子を見守る横で、亜希は無表情に彼らを眺めていた。
……無理やろ。
仲間に囃し立てられながら葉月の前に立つ男はにやにやとしていた。
このイベントが彼女のためのものでないことは明らかで、
葉月も大人しく男の前に立っていたものの、男に冷めた目を向けていた。
「……」
何も予想外の事態は起こりそうに無く、亜希は瞬きをしかけた。
――その時。
「ちょっと待ったぁ!」
背後から声が上がって、亜希はハッとして目を見開いた。
ザッ!――
気配を感じて、咄嗟に横を振り向いた。
肩のすぐ向こうから、何かを決意したような険しい表情をした男子が現れ、亜希の前に出た。
下に下ろした手に拳を握りながら、二人の元へと向かっていく――
その自分よりも背の低い彼の背中を、亜希は後ろから目で追っていた。
「僕も一目惚れしました! 付き合ってください!」
「おーっ!」
亜希の目の前で、彼の声は清々しく、青空高くに突き抜けた。
亜希は彼らを眺めながら、静かに瞬きをした。
その時上がった歓声は、きっと彼の清々しさに対するものではないとわかっていたが、その青々とした空気を、自分も胸に吸い込んだ。
……ちょっと羨ましい。軽薄にノリで告白できてしまうのも、勇気を出して「待った」を掛けに行けるのも。
「すごいなー」
隣でアヤカのつぶやく声が、白い世界の遠くに落ちる。
頭上に広がる空は限りなく青いのに、自分のいる世界は白い。
亜希は白い世界から目の前の三人を傍観していた。
自分のことを打ち明けられない自分は、傍観者なのだ。
いまにも輪郭がぼやけ、その白い世界に溶けて消えてしまいそうなだけの。
これがもし、自分だったら――
『もし 自分のことを 打ち明けてしまったら――……』
「さらに待ったァ!」
――…え?
「いやいや、俺だって!」
「――はっ?!」
「俺も待った!」
「俺も!」
「…!」
「亜希ぃ、なんかすごい~~」
「??!!」
意識の薄れかけていた亜希の耳に、次々と名乗りを上げる男の声が聞こえ、亜希は現実へと引き戻されたのだった。
《……どっ、》
《どんだけモテるんじゃ、アイツ(葉月)はーーっ!》
***
「皆バス乗ったな? ほな帰るでー」
ブロロロロ…




