第3話(7) 夜のロビーで
「お疲れさん!」
研修1日目の終了後の夜。亜希のクラスは研修施設のロビーにあるテーブルを囲み、小さな打ち上げをしていた。
「いやーでもなんやかんやクラスもまとまって良かったなー。相下と山本も仲良うなったしな」
「なってないわ!」
「ははは」
先生の言葉に相下くんが赤面しながら眉を吊り上げる様子に、皆が笑った。
実際、近頃二人はいがみ合うこともなく、研修準備を通してクラス全体の仲が深まり始めていた。
「でもピッタリやったなー。山本くんめっちゃリーダーって感じ」
アヤカが山本くんに笑顔を向けると、山本くんは嬉しそうに返した。
「そう? 『亮平』でええで」
「山本やったらまとめてくれると思っとったで。やから俺はお前選んだんや」
先生が二人を見ながら頷くと、山本くんは声を弾ませた。
「えっまじで?」
「年上やしな」
「えっそうなん?」
先生からの意外な告白にアヤカが山本くんに顔を向ける。
「俺今年23歳」
「は? そんなら俺の方が上やけど、24」
いつもの落ち着いた様子で答えた山本くんに、なぜか謎の対抗意識を燃やす相下くん。
「お前はアカン、リーダーて柄ちゃうやろ。『俺パス』とか言うとった癖に」
「っ!!」
「ははは」
すぐに先生の突っ込みが入って相下くんが決まり悪そうに照れると、どっと笑いが起きた。
《山本――…亮平くん、2個上か…どうりで落ち着いとるはず…》
「早瀬もしっかりしとるかな思て。やっぱ年上やし」
先生がそう言って亜希を見ると、アヤカと亮平くんが声を上げた。
「え? 亜希年上ー?」
「早瀬さんそうやったんや?」
「うん、今年21」
「え~お姉さんやなぁ」
《お、お姉さん?》
「どうりで、早瀬さん落ち着いとると思っとった」
「え、そう?」
意外にもクラスに年齢のバラバラな面々が集まっていると知り、その後はみんなの学校へ来た理由や出身地などを話して盛り上がった。
《優秀でリーダーシップもある亮平くん、問題児だけど陽キャで物怖じしない相下くん、のんびり屋で緩衝材になってくれるアヤカ、そんなクラスを静かに見守る上田先生…》
亜希は先生の奢ってくれた缶ジュースを手に、皆を見回した。
初めは山本くん一人の目立っていたクラスだが、研修準備を通してそれぞれの個性と良さが出てきたように思う。
亜希自身も、自身の役割ははっきりとはわからないものの、ここに自分の居場所もできつつあるという居心地の良さを感じ始めていた。
皆の話題が落ち着き、亜希の手に持つ缶ジュースの中身が半分になった頃。
相下くんが「あーでも」、と思い出したようにこぼした。
「あの子かわいかったよなー、あのバンドの」
相下くんが亮平くんに目を向けながら言うと、亮平くんも顔を上げて頷いた。
「あーあの子」
「あんなかわいい彼女欲しーわ。誰か紹介してぇや」
「えぇ~~相下くん性格悪いしぃ」
「!!」
「ははは」
「…」
亜希は笑いに包まれる相下くんを横目に見ながら、缶ジュースを一口飲んだ。
夕方、ステージの葉月を見て言った、誰かの声が耳に残っていた。
そうして研修1日目が終わり、亜希たちは眠りに就いた。




