第3話(2) 『もし』
「早速授業始めるでー」
休み時間が明けると、担任の上田先生による情報処理の授業が始まった。
授業がしばらく進むと、先生が生徒を当て始めた。
「やからこれは……山本、わかるか?」
「はい」
《おっ》
先生が指名すると、亜希の隣の席の山本亮平くん――先ほどの茶髪チャラ男イケメンが、いい声で返事した。
そのイケメンの実力や如何にと、クラスの皆が一斉に注目する。
亜希も隣の彼の回答を見守った。
「えーと……◯◯やから△△ってことですよね」
「正解や!」
「おおー!」
すらすらと答える山本くん。
その堂々たる振る舞いとチャラっぽい見た目に反した優秀さに、クラスから感嘆の声が上がった。
《うお、やるやんけ》
上田先生も満足そうに頷くと、気分よく次の生徒を指名した。
「じゃあこっちの問題は……相下、どうや?」
「俺?」
返事をしたのはもう一人のしょうゆ顔イケメン――相下トウイくんだった。
椅子に深々ともたれ、頭の後ろで手を組んで悠然と授業を聞いていた彼に、またもや皆が期待の目を向ける。
…が。
「できるわけないやん。ワカランから学校来とるんやけど?」
…相下くんはちょっと怒りながら答えた。
「ま、まぁ確かにな」
上田先生は苦笑いを浮かべながら彼に理解を見せると、
「じゃあ、早瀬はどうや?」と亜希に振った。
「えあっ?! い、今はわかりません」
急に振られ、慌てて返す。
「『今は』? なかなか前向きやな。じゃーまた今度期待しとるで!」
先生がそう突っ込むとどっと笑いが起こり、亜希は首の後ろを手でさすった。
顔だけイケメンの相下くんも、亜希を振り返ってニヤニヤしていた。
「じゃあ宮西は……」
「え~? そんなん聞かんといてよぉ」
アヤカが困ったような顔で笑いながら返すと、またクラス中にどっと笑いが起こった。
キーンコーンカーンコーン。
そんなこんなで新クラスでの初日が終わり、亜希はくたびれた中、学校を後にした。
***
サー…
放課後――
校舎を出た亜希は、しばらく歩くと小雨に降られ、店の軒先に避難した。
「うげー。晴れ言うとったのに」
サーサーと降る雨を見ながら愚痴をこぼす。
と、見覚えのある紺色の傘が、亜希の目の前を通りかかった。
「あ」
「あ」
***
「その傘って……」
「亜希がくれたやつ」
亜希が紺色の傘を見上げて言うと、葉月がふっと笑った。
学校からの帰路、突然の雨に降られた亜希は、葉月の傘に入れてもらって帰ることにした。
なんとなく傘は亜希が差すことにした。
少しだけ葉月に寄せて差した傘を二人の間でぷらぷらと揺らしながら、サーサーと小雨の降る中、静かに二人で歩いていく。
「はは、あの時はチカンからもらっていいんかなって思ったけど。でもちゃんと見たらやっぱ女の子の顔しとるよな、笑ったらかわいいし。亜希ももう少し髪伸ばしたら男に間違われんのちゃう?」
すぐ隣から葉月に覗き込まれ、亜希は少し顔を赤くした。
それをごまかすように顔を前に向けると、亜希は目元で揺れる、自分の前髪を見上げた。
「……自分はえーよ、これで」
「まーショート似合っとるけどね。あ、新しいクラスどうやった?」
「ん~…まぁかわいい子が1人と、イケメン2人おったかな」
「え、そういう感想? えー、でも亜希も、イケメンとか興味あるんや?」
うっかり迂闊なことを口にしてしまい、葉月に意外、という顔を向けられ、亜希は慌てて話題を変えた。
「え?! いやっ……あーっと、今日の夕飯、なんやっけ?」
「えー? なんやっけ?」
変えた話題に葉月が乗ってくれて、ほっとする。
……こういう話はなるべく避けたい。自分のことを言うわけにはいかないから。
じきに通学路にある高架下のトンネルに入って、二人は中を歩きながら夕飯の話を続けた。
「あ、とんかつ?」
「おっ、やったー」
コツ、コツ…
雨音に閉じ込められた暗いトンネルの中で、二人の声と足音がひんやりと響く。
静かに反響する他愛のない声を聞きながら、その振動に動かされるように。
亜希の中で何かが、うねり始めていく――
……でも……時々考えてしまう――
「……」
帰宅後。
亜希はベッドに身体を沈めた。
虚ろに天井を見上げ、目にかかりがちな前髪を摘んで見つめる――
……『もし……』――
***
ピピピッ、ガンッ!
***




