第2話(11) 寮生活ってどう?
こうして理不尽なスパルタにも耐えながら、6月上旬――
亜希たちは、簿記試験を終えた。
そして試験後、寮――
「やれやれ――危うく『当初の目的』を忘れるところやったやん。勉強しすぎて頭おかしなるとこやったでホンマ」
亜希はそう言いながら、部屋で一人、ノートパソコンを開いた。
出会い目的で大阪へきたはずなのに、うっかり忘れかけていた、例の出会い掲示板にアクセスする。
「ホンマどーなっとんねんあの学校、先生気合い入り過ぎやろ」
愚痴をこぼしながら、目当てのスレッドにマウスのカーソルを滑らせる。
「…とはいえ学校の方も一段落ついたし、これで、ようやく――!」
と、亜希が不敵に笑い、クリックしようとした、その時――
コンコン、ガチャ。
「亜希ーテレビ見してー」
…葉月と結衣がやってきて、勝手にドアを開けた。
ばんっ。
亜希は頭を抱えながらノートパソコンを閉じた。
「テレビ食堂にあるやろ! てか返事するまで入ってくんな!」
「え、カギ開いとったら入っていいルール――」
怒る亜希に、葉月がケロリとした顔で宣う。
「ちゃうわっ」
***
結局葉月と結衣は亜希の部屋に入り、ベッドに腰掛けてテレビを観始めた。
「亜希は試験どーやった?」葉月が訊く。
「まーやれるだけやったで。二人は?」
「私はちょっと厳しい感じ。でも1回で受かると思ってないし、次頑張る」
ちょっと困ったような顔で笑いながら、前向きに返す結衣。
「まー2回は受ける覚悟で来とるしな。あたしはどーかな、いけてたらええけど」
結衣にフォローを入れながら返した葉月の表情は、亜希の目に明かるく見えた。
「へー、葉月は自信ありそうなんやな」
亜希が訊くと、葉月はくにゃっとした顔で笑ってみせた。
「だって、それだけ頑張ったからな」
「…」
亜希は彼女の見せたそのほっとしたような、子供のような笑顔に、彼女が試験に懸けていた思いを感じた気がした。勉強ができると思っていた彼女も、不安の中で精一杯努力していたのだろう。
「…そーやな…」
亜希はそうつぶやくと、部屋の中をゆっくりと見回しながら、この2ヶ月間に思いを馳せた。寮で二人に勉強を見てもらったことや、学校でのスパルタに苦しんだ思い出もすべて、自分が頑張ったという証なのだ。
亜希は自分の胸が少しだけ熱くなるのを感じながら、その努力の日々を味わうように少しだけ、その胸に部屋のふるびた匂いを吸い込んだ。
…が。ふとテレビに目をやって、声を上げた。
「…あれ? これ連ドラやったんや?」
何かの単発ドラマかと思いながら眺めていたら、気づけば次回予告が流れていた。
「そーやで? 来週以降もよろしくなー」
と、ベッドでくつろぎながら葉月が宣う。
「え、毎週来る気?」
……な、なんつー図々しいヤツら…
亜希は呆れ顔を浮かべて――それからすぐにくす、と笑った。
「犯人誰と思う?」
「アイツ怪しない? 最初のさー…」
そしてくつろぐ二人を眺めながら、初めに二人と話した言葉を思い出す――
『寮生活ってどう?』
『結構楽しいよー』
亜希は本棚でボロボロにくたびれた簿記のテキストを見つめると、
もう一度、その胸の中に――この心地よい空気を吸い込んだ。
みんな、簿記試験――お疲れさま…!
第2話 『楽しい?! 寮生活』 END




