第1話(2) 苦い青春の記憶と希望
好きな人に「好きだ」と言える――それはとても幸せなことだろう。
だがこの早瀬亜希は、まだ一度も「好きだ」と伝えたことがない。
好きな人はいたことがあるが、相手はいつも女性だった。
最後の恋は高校3年間におよぶ片思い。気持ちを伝えることもできないまま、卒業式の日、目の前で好きな子をかっさらわれて終わった。
結局その子と一緒に行くはずだった大学への進学もやめてしまって、もう2年近く、関西の片田舎ですねかじりのフリーターをしている。
「はー、傷心傷心。フリーターでも仕方ないやん。だって傷心だもの」
そう言い訳しながらベッドでゴロゴロと寝転がり、彼女と撮った写真のアルバムを眺めては、感傷に浸るのが亜希の日課だ。
そして卒業式の日、彼女の横で笑う自分の顔を見て、そっとアルバムを閉じるのだ。左目の下、頬の辺りに縦に並んだ二連のほくろを見つめながら。
「……泣きたいくらいなんやったら、告ればよかったやろ」
つぶやきながらベッドの棚にアルバムを仕舞う。
そばに置いていたウォークマンを手に取ると、イヤホンを着けた。
YURIの希望の曲を流して、ベッドに仰向けに寝転び、目を閉じる。
まだマイノリティであることのカミングアウトが憚られていた時代。
今のところ苦いばかりの青春。少し難しさの感じる人生。
でも、どこか期待もしている――
だからいつも沈みすぎる前に、大好きなYURIの曲を聴き、明日への希望に思いを馳せるのだ。
『いつか自分も、素直に「好きだ」と言える恋をしてみたい』、と――!




