第2話(8) 絶対わざとやろ。
「おはよー。今日は早いやん」
翌朝――食堂へ降りた亜希は、結衣と仲良くテーブルをはさんで朝食を食べていた葉月に声を掛けられた。
亜希はいつもと変わらぬ、人懐っこい笑みを向ける彼女を一瞥すると、戸棚から朝食のプレートを取って、少し離れたところの空席に座った。
「こっちで食べたらええのに」
***
その日の夜。
「葉月のこと、避けとる?」
不意に訊ねられ、亜希のペンが止まった。
隣に顔を向けると、結衣がこちらを見て微笑んでいた。
今日は自分の部屋で彼女に勉強を見てもらっていた。
簡易椅子の上で体ごとこちらに向けて微笑みかける結衣を見て、椅子の背もたれに背中を押し付けて逡巡する。
ペンを持った方の手でノートに残る消しゴムの削りカスを軽く払った。
「べつに…そういうわけとちゃうけど……ちょっと苦手かも」
「あはは。第一印象が悪かったもんなー」
「……」
亜希は結衣から視線を外して少しだけ考えると、もう一度彼女に顔を向けた。
結衣は微笑み続けていた。
「葉月、いい子やで。仲良くしたってよ」
***
翌日の放課後、亜希の部屋――
ピロリロー。
亜希が机の上で勉強道具を揃えていると、携帯電話からメールの着信音が鳴った。
「ん、結衣から? ……うげっ!」
メールを見て、声を上げる。
『今日学校に残るから勉強は葉月に見てもらって。葉月には頼んであるから。ごめんね』
……絶対わざとやろ。
亜希は昨夜の結衣の笑顔を思い出して苦い顔をすると、机の上でもう一度勉強道具を整え直し、葉月の部屋へ向かった。




