第2話(5) 「努力」と「勝利」の額縁の揺れる教室
キーンコーン。
「初日から遅刻はダメでしょ」
「す、すみません」
くすくす。
結局、亜希は寝グセを直すのに時間が掛かり、学校に遅刻したのだった。
***
「いいですか、皆さんっ! 『春の簿記試験』までたった2ヶ月しかありませんっ!」
亜希が着席をすると、教壇に立つ黒スーツの担任が俄に眼鏡を光らせた。
6月の試験までの日程と「合格」の文字が書かれてある黒板をガンッと叩き付ける。
「のんびりしとる暇はないでっ!」
「絶対に皆でっ! 合格するんやでぇええっ!」
亜希は一言語るごとに必死に黒板を叩き付ける担任に、汗を滲ませた。
担任が黒板を叩くたび振動が起こり、時計の横に掲げられた「努力」と「勝利」の額縁が揺れていた。
他の生徒たちも亜希と同じ様に担任に不安な目を向けていた。
《な、なんやこの学校…ついていけるやろうか? このテンションに……》
――と、教員の熱血さに不安になる亜希だったが……
キーンコーンカーンコーン。
ぐったり……
《な、なんじゃこの授業進捗の速さは……》
しかし亜希がついていけないのは、授業の方だった。
終業時間を迎えた頃には、亜希は白目をむいて机に突っ伏していた。ぷすぷす。
***
「初日からギブぅ?! まだ3級やろ? 早すぎー」
「いやいや、むずいやん!」
「あはは」
夜。寮に帰宅した亜希は、夕食時の食堂で居合わせた葉月と結衣に教室での苦戦ぶりを愚痴り、からかわれていた。
「やから言うたやん? 厳しいって。うちの学校、簿記取らな卒業できんのやから頑張りーよ」
「~~!」
葉月に言われ苦い顔をするも、何も言い返せない亜希。
からかう彼女の顔のかわいさに憎たらしさを感じつつ、皿の上のハンバーグを箸で割りながら心の中でぼやく。
《クソ~~でも、葉月の言う通りなんよな……》
そう、三人の通う学校では卒業資格として簿記試験の合格が必須となっているのだった。
亜希の選択コースは簿記を基礎の3級からスタートし、最終的に2ヶ月で2級を目指すスケジュールとなっている。
つまりこれからどんどん難しくなっていく予定だが、まだ始まったばかりでこれでは、どーなることやら……。
と、亜希が困っていると、結衣が助け船を出してくれた。
「まー初めてじゃ難しいよね。わからんとこ教えたるから、後で部屋おいで」
・2026.01.26 誤って消去してしまっていた遅刻部分を復活させました(その他の微修正については記録を省略しています)




