第2話(4) ピピピガンと矢野先輩
そして迎えた月曜、初めての登校日――
ピピピッ、ガンッ!
ピピピッ、ガンッ!
「う~ん、あと5分~~」
***
「次止めへんかったら目覚まし壊すから」
「す、すみません」
清々しいはずの登校初日の亜希の朝は、布団に潜ったまま目覚ましのアラームを鳴らし続けてしまったことにより、隣室の久住先輩にドアを蹴り付けられる音で始まった。
寮の2階、廊下の部屋の前で、腕を組みながら睨みつける久住先輩に頭を垂れる亜希……床に視線を落とすと、久住先輩は今日もショートパンツからすらりとした脚を出していた。
「『寮のルール』のプリントにも書いとったやろ? 『周囲に配慮して騒音に気をつけろ』って」
「は、はい…」
どっちが騒音じゃ、と廊下の突き当たりに向かってこっそり頭を下げる。
洗濯機を回している他の寮生が、迷惑そうにこちらをチラチラ見ていた。
が、久住先輩の言葉で思い出す。そういえば寮長にもらったプリントは、軽く目を通しただけで机の上に置きっぱなしにしていた。
「てかあんた朝ごはんいらんの? 8時半までやけど」
「あっ!」
言われて声を上げる亜希。確かそれもプリントに書いていた。
『朝の食堂は8時30分まで。和食・洋食セットが選べるが、無くなり次第終了』――
「イカン、和食セットがっ!」バタバタッ!
「あの子がビラの子?」
「うっさいのが来たわー」ピシャッ!
亜希はピシャッと髪を払う久住先輩に愚痴られる中、1階の食堂へと階段を駆け下りた。
***
亜希は1階に下りると、食堂へと飛び込んだ。
「おばっ…寮母さん、和食ありますかっ?!」
「あらおはよう。そこ(棚)に出てるので最後よー」
寮母に言われて棚を見ると、1つだけ残る和食プレート。
《ラスト一食! よかったー》
と胸を撫で下ろし、亜希が手を伸ばした、その時――!
しゅばっ!
「あっ!」
突如、横から矢の如く腕が伸びて来て、亜希の取ろうとしていた和食プレートを何者かが掠め取っていった。
《な、なんじゃ?!》
亜希が唖然として横を見ると――肩の下から、亜希を見上げてニヤリと笑う、短髪の女性――背の低い小太りがっちりの女性が、床をどっしりと踏みしめて亜希の横に立ち、ピチピチの白Tシャツがはち切れんばかりのたくましい肩口をこちらに向けて、腹の前で和食プレートを握りしめていた。
《す、すごい筋肉と体幹……》
「お前ビラの新入りか。プリントに書いとったやろ、『朝食の和食・洋食は早いモン勝ちやぞ』って」と短髪の女性が勝ち誇ったように笑う。
「ええっ?!」《よ、横取りは反則では…》
と、亜希が呆気に取られていると。
後ろから空の朝食プレートを持った葉月と結衣がやってきて、小太りがっちりの女性に親しげに声を掛けた。
「矢野先輩、おはよーございます」
「おはよーございます」
「おう」
「亜希ー、こんな時間に来てたら欲しいの食べれへんでー? はは、寝グセすご」
「あはは」
「えっ!」
葉月にからかわれ、慌てて寝グセを抑える亜希。
葉月と結衣はプレートを返却すると、笑いながら食堂を出ていった。
「~~!」
***
洗面所――
ブオオオオッ
「うおおおおっ! 寝グセ直んねぇぇっ」
「おいビラの奴、ドライヤーこっち向けんな!」
亜希は隣に居合わせた学校ジャージ姿の寮生にドライヤーを食らわせながら身支度を整えた。
***
「くっそ、ここの寮生の常識どーなっとんねん…! えーっと、ノートと、ペンケースと…!」
身支度を終え、慌てて机のものをリュックに詰め込む亜希。
と、視界の端に、机の脇に置かれたクリアファイルが映った。
「ん? 寮長からもらったプリント……そういえば皆やたらプリントプリント言うとったけど……はっ! イカンっ! 初日から遅刻してしまうっ」
亜希はプリントを机の上に放ったまま、学校へと向かった。
その後、後悔することになるとは知らずに……
・2016.01.16 矢野先輩の外見描写周りを加筆しました(その他の微修正は記録を省略しています)




