第2話(3) 好きにはならなさそうで、よかった
「……代わりのお箸、持って来ようか?」
「うん大丈夫、ありがと……」ずるずる。
亜希は夏目さんの申し出を断ると、半分になった割り箸でラーメンをすすった。
《だいぶ伸びてもーたで…》
と、青山さんが亜希に訊ねた。
「ところでさー、」
「うん?」ずるずる。
「亜希はなんでこの学校に来たん?」
「ブッフォ?!」ブフォッ!
「ゴホッ、ゴホッ!」
「うわっ、ちょっと大丈夫?」
心配そうに声を掛けつつ、自分の周りに飛んできたラーメンをちょっと気にする青山さん。
「ご、ごめん…」
「はい、ティッシュ…」
夏目さんがポケットティッシュを差し出してくれた。
「あ、ありがと…」
夏目さんにもらったティッシュで口とテーブルを拭きつつ、亜希は焦った。
《出会い探し、それも同性同士の~~だなんて、言えるわけがないっ!》
「こ、高校卒業後、2年間フリーターしとったら親に入れられた」
「えっ!」
「えっ?!」
首の後ろをさすりながら適当にごまかす亜希。
しかし青山さんと夏目さんは目を丸くして声を上げた。
「とっ、年上?! タメ口ごめんなさいっ」
口に両手を当てて、しまったという顔をして謝る夏目さん。
その横で青山さんは、片眉を上げると、スプーンを持ったままの手でゆっくりと頬杖を付いた。
「2年間もフリーター? ふ~~ん、人生ムダにしとるんやな」
「もー、葉月!」
《え。初対面でそこまで言う?》
青山さんはスプーンを顔の横でぷらぷらと揺らしながら亜希に軽蔑の眼差しを向けた。
その侮蔑にまみれた態度に、先ほどまで彼女のことをかわいいと思っていた亜希の眉も、ぴくりと動く。
が、そこに夏目さんの声が割り込んだ。
「でも――うちの学校って、授業キツいよね。そんないい加減な気持ちでついて来れるかなぁ?」
「なー?」
夏目さんが心配そうに青山さんに目を向けると、青山さんも半笑いを浮かべながら相槌を打った。
「…」
《受験なしで誰でも入れる専門学校やし……そんな難しそうなイメージ無いけどな…》
そう考えようとする亜希だったが、それまでにこにこしていた夏目さんから笑顔が消えるのを見て、亜希も不安になった。
と、青山さんがぱっと亜希に笑顔を向けた。
「まー同級生なんやし、年上とか気にしてもつまらんからさ、仲良くしよ。タメ口でえーやろ? お互い呼び捨てで」
「う、うん…」
亜希は一抹の不安を感じる中、伸びきったラーメンをすすった。
***
食事と片付けを終えると、三人は食堂を後にし、廊下に出た。
「背高いね。身長いくつ?」
「170」
「いいなー」
「結衣は155くらい?」
「うん、154」
肩の横でにこにことこちらを見上げる結衣に笑顔を返しながら、亜希はその向こうにいる葉月をチラと見た。
《……165、6……くらいかな……》
亜希は女にしては背が高いことが自慢だったが、葉月は自分より少し低いだけだった。
隣に並んだ時の格好の付かなさを想像して、なんとなく自分が男でないことのコンプレックスが刺激される――
と、角を曲がったところ、階段下の廊下で、寮長が壁に向かって手を伸ばしていた。
「あっ、早瀬さん! ほら、できたよ。どう?」
「ん?」
こちらに気づき、嬉しそうに壁の掲示板をぽん、と叩く寮長。
その掲示板を三人が見ると――
『男の子みたいな女の子入りました』
……亜希の顔写真が大きく刷られたビラが貼られていた。
「はは、ビラってこれですか?」
「あはは…」
《このおっさん、ホンマ…!》
葉月と結衣が笑う横で、亜希は寮長を睨み付け、ぷるぷると身体を震わせるのだった。
***
その後――
「なんじゃあれ、あのポニテ、かわい過ぎやろ……!」ぼふっぼふっ
二人と別れて部屋に戻った亜希は、まくらに顔をうずめて葉月のかわいさに悶絶した。
亜希は葉月のポニーテール姿を痛く気に入ったのだった。
が、すぐに落ち着くと、
「…まーでも、……」と、まくらから顔を上げた。
「性格はかわいくなさそうで……『よかった』。あーいうタイプは、好きとちゃうし……」
亜希はそうつぶやきながら、写真を見つめた。
淡い水色の写真のアルバム――
高校時代の苦い青春の思い出の詰まったアルバムを、亜希は自戒のため持ってきていた。
――ノンケはもう二度と、好きになりたくない――
「…まぁええわ。今日は疲れた、もうお風呂入って寝よ。ええと、シャワー室……」
そう言うと、亜希はアルバムを閉じてベッドの棚に置いた。
そして寮長からもらったプリントでシャワー室の位置をチラッと確認すると、シャワーを済ませて、早々に眠りに就いた。
・2026.01.16 葉月の身長に関する描写を追加しました(その他の微修正は記録を省略しています)




