第2話(2) え、大浴場?
ほどなく亜希の向かいにカレーライスの皿が並べられ、三人で四人掛けの四角いテーブルを囲んだ。
タイマーが鳴り、亜希が夏目さんの向かいでカップ麺をすすり始めると、彼女がにこにことした丸い目を亜希に向けて訊いた。
「寮のルールのプリントってもう貰った?」
「プリント?」
夏目さんに言われて、亜希は寮長から渡されたプリントを思い出した。
「ああうん、まだちゃんと読んでないけど」
「門限とかご飯の時間とか書いとるから、ちゃんと読んどいた方がいいよー」
「そうなんや。寮生活ってどう?」
亜希が返事をしつつ、さっきからずっとにこにことしている夏目さんになんとなく振ってみると、彼女は一段と明るい顔を向けた。
「結構楽しいよー。同じ学校の子おると勉強の相談もできるし」
「へー」
にこにこと返してくれる夏目さんに、つられて笑顔の出る亜希。
が、
「ご飯も美味しいし、大浴場も気持ちいいし」
と続けられたところで、亜希は青ざめた。
「えっ、『大浴場』つ?!」
亜希はバン!とテーブルに手を付き、慌てて身を乗り出した。
その拍子に手に持っていた割り箸がバキンと折れたが、構わず、わなわなと拳を震わせながら二人に訊ねる。
「だだだ、大浴場って!! ほ、他の人と一緒にお風呂入らなアカンってこと……?!」
《そんな……最悪や……!》
――高2の冬……亜希は前日にわざと風邪を引いて修学旅行を休んだ。クラスメートの女子と一緒に大浴場に入るのが、どうしても嫌だったからだ。
『38度5分……こりゃアカンわ。修学旅行、休まなしゃーないね。普段風邪らぁ引かんのに、なんでこんな日に引くんかいねー』
『お母さん……積立金無駄にしてごめんね』
『えー? 桃缶冷蔵庫にあるから。あとで食べーよ』――…
亜希は、胸を痛めながら母に本当の事を隠してずる休みをした、あの冬の事を思い出した。
積立金を無駄にさせてしまうことをわかってはいたが、それでも欠席を選んだ。亜希にとってはそれほどまでに嫌なことなのだ。
《それやのに、あの時お母さんが買ってきてくれた桃缶が、結局ここで無駄になるなんて……!》
「あ、あの、割り箸…」
夏目さんが亜希の手元に目をやりつつ、おそるおそる口にした。
めきっ…めききっ……
苦悶に顔を歪ませる亜希の、ギュオと握りしめた拳の中で、割り箸が小さな悲鳴を上げていた。
その沈痛な空気の流れる中――ぽかんと口を開けた青山さんが冷静につぶやいた。
「大浴場が嫌やったら、個室のシャワー室もあるけど…」
《ずこーっ! 早よ言ってよ!》




