第2話(1) 再会後、食堂にて
「あはは、チカン扱いはひどいなー」
「だって男みたいな格好しとるんやもん。女って言ってくれたらよかったやん?」
「うっ」
「葉月ー、そんなん騒がれたら逃げたなるって。ねぇ?」
「う、うん…」
「えー」
1階の食堂、備え付けのキッチン。
亜希がシンクで縮こまってポットに水を入れる横で、黒髪の小柄な子がフライパンを混ぜながら笑い、薄茶色の髪の子が不貞腐れるように皿を置いた。
〘な、なんか助かったかな…〙
不満げに眉をしかめる薄茶色の髪の子にチラと目をやりつつ、胸を撫で下ろす。
死ぬほど気まずかったが、黒髪の子のおかげで追及されずに済んだ。
駅で男のフリを通してしまった彼女との、気まずい再会のその後――
寮長の紹介により、亜希は早々に女だとバレたのだった。
その場にいた黒髪の子と共に三人で休日の食堂に流れ込み、今はそれぞれ夕食の準備をしている。
「そっか、ごめんなー」
「…べつに気にしてないよ」
〘――うげ。やっぱかわいい…〙
彼女に恥ずかしそうに苦笑いを向けられ、思わず一瞬目を留めてしまう。
亜希は短く笑顔を返すと、カップ麺を取るフリをして後ろを向いた。
***
「これもう洗っていい?」
「うん、お願いー」
〘夏目結衣さんと、青山、葉月さん…〙
亜希はテーブルでカップ麺の封を破りながら、慣れた様子でキッチンに立つ二人の後ろ姿を眺めた。
黒髪の小柄な、顎下でふんわりと丸みを帯びたボブの女の子は307号室に住む夏目結衣さん。
そして洗い物を始めた――駅で会った女の子は、402号室の青山葉月さんというそうだ。
これから通う専門学校は全学科で簿記が必修となっているが、入学後すぐに高難度の1級を目指す特別コースがあるという。
簿記経験者らしい彼女たちはそのコースの新入生として、普通より2週間早くここに来ているそうだ。
〘どうりで慣れとる感じ…〙
青山さんは洗い物を始める前に髪を後ろで1つに括っていた。
駅ではチラチラと見え隠れしていたシルバーのチェーンピアスが、ポニーテールにされた彼女の耳元でキラキラと揺れている。
「ちょっと、お湯!」
振り返った青山さんが亜希を見て声を上げた。
「え?」どぼどぼ。
彼女に気を取られてカップ麺のお湯を注いでいたのを忘れていた。
「どあっち!」




