「梅の花」
1 春の兆し
二月の終わり、まだ空気はひんやりとしているけれど、風にほんのりとやわらかさが混じるようになってきた。
病院の庭の隅にある梅の木も、つぼみを膨らませていた。
「もうすぐ咲きそうだね」
美咲が空を見上げると、女の子は「うめって、さくらより先に咲くんだよね?」と首をかしげる。
「そう。まだ寒いのに、一番先に春を知らせてくれるんだよ」
ベルは枝先のふくらんだつぼみに鼻を近づけてくんくんと匂いを嗅ぎ、チャイは落ちていた小枝を拾って走り回る。
モカは「折っちゃだめだよ」と心配そうに見上げ、リクは静かに木の根元に座って目を細めた。
ユキは高い枝にすばやく登り、つぼみの並ぶ景色をひとりじめしていた。
2 ほころぶ白
数日後、とうとう最初の花が開いた。
白く小さな花びらが朝の光を受けてきらりと輝き、淡い香りがふわりと漂った。
「咲いたね!」
女の子が声をあげると、ベルは尻尾をぶんぶん振り、チャイは跳ねるように近づいた。
モカは花びらにそっと鼻を近づけて「いい匂い……」と小さく鳴き、リクは花の形をじっと観察していた。
ユキは枝の間で目を閉じ、風にのる香りを楽しむようにしていた。
3 花の下で
昼休み、病院の庭でお弁当を広げることになった。
梅の木の下に敷いたシートに、みんなで並んで座る。
「春らしいねぇ」
美咲が笑いながらおにぎりを配ると、女の子は「お花見だね!」と嬉しそうに言った。
ベルはおにぎりの匂いに釘付けになり、チャイはシートの上をころころ転がって花びらを追いかける。
モカはお弁当箱をのぞき込みながらも、「こぼしたらだめだよ」と言わんばかりに女の子の膝を見守る。
リクは落ち着いて背を伸ばし、木の根元に座って周りの気配を見渡していた。
ユキは高い枝から、まるで家族を見守るようにその様子を眺めていた。
4 春の香りと小さな来訪者
梅の花には小さな蜂や鳥がやってきた。
花から花へと飛び移り、蜜を集める姿に女の子は目を丸くする。
「わぁ……ちっちゃい!」
ベルは興味津々で鼻を伸ばそうとし、美咲に「つついたらだめだよ」と止められる。
チャイは鳥の影を追いかけて走り回り、モカは心配そうにその後を追いかける。
リクは動じることなく、自然の営みをただ静かに見つめていた。
ユキは枝の上からすばやく飛び立つ鳥を見送って、尻尾をふわりと揺らした。
5 夕暮れの梅
夕方になると空がほんのり赤く染まり、梅の花が柔らかい光を受けて浮かび上がった。
「きれいだね……」
女の子がぽつりと言うと、美咲も「ほんとだね」と頷いた。
ベルとチャイは遊び疲れて寄り添い、モカはその間にすっぽりと座って目を閉じる。
リクは静かに庭の外を見つめ、ユキは枝の上で毛づくろいをしていた。
春のはじまりを告げる梅の花は、みんなの心に静かなあたたかさを運んでくれた。




