「春一番」
1 嵐の予感
三月のある日。
朝から空はどんよりと曇り、風が強く吹いていた。
「今日は春一番が来るかもしれないって天気予報で言ってたよ」
美咲がそう言うと、女の子は少しわくわくした顔をした。
庭に出ると、すでに風は木々を大きく揺らし、枝がざわざわと音を立てていた。
ベルはその音に耳を立てて尻尾を振り、チャイは駆け回って風を追いかける。
モカは不安そうに女の子の足元に寄り添い、リクは落ち着いて風の匂いを嗅いでいた。
ユキは塀の上に軽やかに飛び乗り、毛をなびかせながら凛とした姿で空を見上げていた。
2 風に舞う落ち葉
散歩に出ると、強い風が落ち葉を舞い上げていた。
茶色や黄色の葉っぱが空にくるくる舞い、まるで小さな竜巻のようだった。
「わぁ! 葉っぱのダンスだ!」
女の子が笑うと、ベルとチャイはその葉っぱを追いかけて全力で走り出した。
モカは「つかまえられるわけないのに」とため息をつくように鳴きながらも、つい一枚を追いかけてしまう。
リクは冷静に、舞う葉っぱの軌道を目で追い続けていた。
ユキは葉っぱの群れの中をすり抜け、光を浴びた白い毛をきらりと光らせた。
3 風の悪戯
広場に着くと、突然の強風が吹きつけた。
女の子の帽子がふわりと飛ばされる。
「あっ!」
ベルがすぐに追いかけ、チャイとモカも後を追った。
帽子は風に乗って転がり、ぴょんぴょんと飛びはねる。
リクは冷静に進む先を見極め、すっと立ちふさがって帽子を前足で押さえた。
「リク、ありがとう!」
女の子が駆け寄り、飛ばされた帽子を抱きしめた。
ベルとチャイはまだはしゃいで走り回り、モカは胸をなで下ろしていた。
ユキは少し離れた枝の上から、誇らしげにその光景を見下ろしていた。
4 春一番の力
その後も風は強く、道端の看板や旗をばたばたと揺らした。
畑のビニールがばさばさとはためき、音に驚いたベルが思わず吠える。
チャイは勇敢に飛びつこうとし、モカは「危ないってば!」と鳴く。
リクは耳を立てて音の正体を確かめ、ユキは落ち着いて揺れるものを眺めていた。
女の子は風に押されながらも、「すごいね、春一番って!」と声を弾ませた。
美咲は「春のはじまりを知らせてくれる大切な風なんだよ」と答える。
5 病院に帰って
帰り道も風は強く、みんなの毛はすっかり乱れていた。
病院に戻ると、ベルとチャイは疲れたように毛布に飛び込み、モカはやれやれといった顔でその横に座った。
リクは静かに体を伏せ、ユキは窓辺で尾を丸めながら外の風をまだ聞いていた。
女の子は「風ってちょっと大変だったけど、なんだか楽しかった」と笑う。
美咲は「春一番が来ると、ほんとうに春が近いんだなって思うね」と頷いた。
強い風の一日は、冬の終わりと春の訪れを、確かに知らせてくれたのだった。




