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動物病院日誌   作者: 匿名希望


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「雪解けの道」

1 朝の光


冬の寒さが少しずつやわらぎはじめた三月のはじめ。

朝、病院の庭に出ると、いつもの白い世界はすこし表情を変えていた。


「雪が……溶けてきてる」

女の子が小さな声でつぶやく。


足元の雪はまだところどころ残っているけれど、地面が見える部分も増えてきた。

土のにおいがふわりと漂い、雪の下で眠っていた草の芽が、かすかに顔を出している。


ベルはさっそく庭を駆け回り、残った雪に体をこすりつける。

チャイは水たまりを見つけてぴちゃぴちゃと跳ね、モカが慌てて「服が濡れちゃうよ!」と鳴いた。

リクは静かに匂いを確かめるように歩き、ユキは塀の上にのって、春の気配を見つめていた。


2 雪解け道へ


「今日は、ちょっと遠回りして散歩に行ってみようか」

美咲がそう言うと、女の子は大きくうなずいた。


病院の裏手に広がる小道は、冬のあいだ雪でふさがれていた。

けれど、少しずつ雪が溶けて、歩けるようになってきたのだ。


歩きはじめると、しゃり、ぐちゅ、と足元からいろいろな音が返ってくる。

雪が凍って残っている場所では軽い音、解けた場所では水を含んだ重い音がした。


「わぁ……すごいね、同じ道なのに、音が全部ちがう!」

女の子は楽しそうに歩きながら、いちいち足元を確かめるように踏んでいく。


ベルはぴょんぴょん跳ねて大はしゃぎ。

チャイはわざと水たまりに飛び込み、モカは「また汚れるってば!」と声をあげる。

リクは落ち着いて歩調を合わせ、ユキは塀の上から見守るようについてきた。


3 小川のせせらぎ


少し歩くと、小さな小川に出た。

冬の間は氷で閉ざされていたけれど、今日は水がさらさらと流れていた。

雪解け水が集まり、春の兆しを告げる音だった。


「きれい……」

女の子はしゃがみこんで、水面をのぞきこむ。

太陽の光を受けて、水はきらきら輝いていた。


ベルは前足をちゃぷちゃぷ入れて大喜び。

チャイは水しぶきをあげながら駆け回り、モカは「冷たいのに!」と少し離れて座りこんだ。

リクは川面をのぞいて、映る空を見つめている。

ユキは高い枝に飛びのぼり、川全体を静かに眺めていた。


そこへ、一羽のカモが水面をすべるように現れた。

「わぁ!」と女の子が声をあげると、ベルもチャイも思わず川に入ろうとする。

美咲に呼び止められて足を止めた二匹は、名残惜しそうに尻尾を振った。


4 ぬかるみの冒険


さらに歩くと、道の真ん中に大きなぬかるみができていた。

雪が溶けて流れたあと、土がやわらかくなっているのだ。


「うわぁ、どろんこだ……」

女の子は少し顔をしかめたが、ベルとチャイは迷わず飛び込んだ。


ばしゃっ! ぐちゅっ!

二匹は泥の中で跳ね回り、体中を泥だらけにしてしまう。


モカはあきれたように「もう……!」と鳴き、リクは静かに道の端を選んで歩いた。

ユキは泥に近づかず、木の上から冷ややかに見下ろしていた。


「こらー!」

女の子が慌てて声を上げると、ベルとチャイは泥まみれの顔でにっこり(?)振り向いた。

その様子に、女の子もつい笑ってしまった。


5 春の匂い


散歩の帰り道。

空気にはまだ冷たさが残っていたけれど、どこかやわらかな匂いが混じっていた。

雪の下から顔を出した草や、道ばたの小さな花が、春の到来を告げている。


「もうすぐ春だね」

女の子がぽつりとつぶやくと、ベルは尻尾を大きく振り、チャイとモカも声を合わせた。

リクは穏やかに目を細め、ユキは遠くの山をじっと見つめていた。


6 病院に戻って


病院に帰ると、ベルとチャイはすぐに洗われることになった。

「わー! 冷たい!」とチャイが鳴き、モカが「だから言ったでしょ」とあきれる。

ベルは気持ちよさそうに水を浴び、すっかり泥を落としてしまった。


洗い終わった二匹は毛布の上で丸まり、ストーブの前で体を乾かす。

リクはそのそばに静かに座り、ユキは窓辺で春の光を浴びていた。


女の子は湯気の立つお茶を飲みながら、美咲に言った。

「雪が溶けると、こんなにいろんなことがあるんだね」


美咲はにこりと笑い、「そうだね。雪解けの道は、春のはじまりを連れてくるから」と答えた。


外の光はやわらかく、冬と春の境目にいることを、みんなで感じていた。

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