「冬の音」
1 静かな朝に
冬の朝は、とても静かだ。
雪は降っていないのに、空気そのものが音を吸いこんでしまうような、そんな静けさ。
「しーんとしてるね」
女の子が声をひそめると、ベルが首をかしげて「そうだね」と言いたげに尻尾を振った。
そのとき、ぱきん、と足元で霜柱が砕ける音がした。
チャイが飛び跳ねて踏みつけたのだ。
「わっ! いい音!」と女の子は笑う。
モカもためしてみる。しゃり、と軽やかな音がして、思わず目を細める。
リクは音の違いを確かめるようにゆっくり歩き、ユキは塀の上から見下ろしていた。
2 風の音
裏庭に回ると、木立の枝が風に揺れていた。
冬の風は冷たいけれど、乾いた枝葉をこすり合わせて、さらさらと不思議な音を生み出す。
「秋の葉っぱとは違う音だね」
女の子が耳をすませると、ベルが吠えずに静かに立ち止まり、同じように耳を立てた。
チャイは走り回りながらも、風の音に気づいて立ち止まる。
モカは風に乗って飛んできた枯れ葉を追いかけて遊び、リクは落ち着いた顔で枝音を楽しんでいた。
ユキは高い場所から風を受け、毛をなびかせていた。
3 氷の音
病院の近くの水たまりには、うすい氷が張っていた。
ベルが前足でちょんと触れると、ぱりん、と透きとおった音が広がる。
「わぁ……ガラスみたい」
女の子が感嘆すると、チャイが勢いよく飛び乗り、ばりばりと氷を割った。
モカは慌てて「そんなにしちゃ危ないよ」と小声で鳴く。
リクは氷の破片をじっと見つめ、ユキはそっと水面に顔を近づけて、映る自分の姿を確認していた。
4 帰り道の鈴
散歩の帰り道、近所の家から小さな鈴の音が聞こえてきた。
風に揺れる風鈴ではなく、戸口にかけられた冬用のお守りの鈴だった。
「きれいな音……」
女の子は立ち止まって聞き入る。
ベルの耳もぴくぴく動き、チャイとモカは顔を見合わせて首をかしげた。
リクは目を細め、ユキは尾をゆったり振った。
冷たい空気の中で鳴る鈴の音は、なぜかとてもあたたかく聞こえた。
5 病院にて
病院に戻ると、ストーブの音がぱちぱちと部屋に響いていた。
ベルはその前で丸くなり、チャイとモカはまだ氷の感触を思い出していた。
リクは静かに毛づくろいをし、ユキは窓辺に座って遠くの風の音を聞いている。
女の子は美咲に「冬って、音が特別だね」と話した。
美咲は「うん、静かだからこそ小さな音がよく聞こえるんだよ」と答える。
その日、みんなの心には、冬の音がやさしく響いて残った。




