「小鳥の訪問者」
冬の朝の訪問者
一月も下旬。
雪は少し落ち着いたが、空気はまだ冷たく、病院の窓にはうっすら白い息がかかっていた。
その朝、クリニックの玄関前で美咲が声を上げた。
「先生! この子……!」
見てみると、小さなスズメがうずくまっていた。
羽は濡れ、冷たさで動けなくなっているようだ。
私はすぐにタオルにくるみ、診察室へ運んだ。
「体温が落ちてるな。暖めてやれば大丈夫かもしれない」
美咲は心配そうに小鳥をのぞき込みながら、ストーブの近くに小さな箱を用意した。
待合室のにぎわい
午前の診察が始まると、病院は次第ににぎやかになっていった。
加藤さんとリクが最初にやってきた。
リクは小鳥の箱を見つけ、じっと首をかしげている。
「散歩の途中でスズメを助けるなんて、さすが先生だ」
加藤さんが笑うと、リクは鼻先をちょんと箱に近づけ、優しく息を吹きかけた。
続いて現れたのは、チャイとモカ。
キャリーから出るとすぐに箱のまわりをうろちょろ。
「こら、いたずらしないの!」
ご夫婦にたしなめられても、二匹は好奇心いっぱいに小鳥をのぞき込んでいた。
昼前には白猫のユキもやって来た。
ユキは小鳥の箱をちらりと見ただけで、ゆっくり窓際に移動。
雪景色を眺めながら、どこか誇らしげに尻尾を巻いて座っていた。
小さな命の回復
ストーブの近くで休んでいた小鳥は、午後には少しずつ羽を動かし始めた。
「先生、目を開けました!」
美咲が嬉しそうに声を上げる。
私はそっと水を口元に近づけると、小鳥は小さくくちばしを動かした。
その瞬間、美咲の顔がぱっと明るくなる。
「よかった……!」
ベルと一緒に来ていた女の子も心配そうに見ていて、小鳥が動いたのを見て拍手した。
ベルは尻尾をぶんぶん振りながら「ワン!」と鳴き、待合室に小さな笑いが広がった。
旅立ちのとき
夕方になり、小鳥は元気を取り戻したようだった。
「もう大丈夫だろう」
私は玄関の外に出て、空へと手を放した。
小鳥は小さく羽ばたき、夕暮れの空へ飛んでいった。
その姿を見上げる美咲の目には、光がきらきらと映っていた。
「先生、あの子、春になったらまた来てくれるでしょうか」
「どうだろうな。でも、もし来なくても、今日のことを覚えていてくれればいい」
病院の前の電線に、別のスズメたちがちょこんと並んでいた。
その鳴き声が、まるで「ありがとう」と言っているように聞こえた。
夜のひととき
診察が終わり、カルテを整理していると、美咲が言った。
「今日、小鳥を助けた先生の姿を見て、私ももっと頑張りたいって思いました」
私は少し照れながら笑った。
「動物が好きで、困っている命を放っておけない。それだけで十分だよ」
窓の外には、星の下で眠る街と、電線に並ぶ小さな影。
その夜、ひだまり動物クリニックは、ほんの少しだけいつもより温かい灯りをともしていた。




