「本格的な雪の日」
1 雪に覆われた朝
ある朝、目を覚ますと世界がすっかり変わっていた。
窓の外には一面の白。木々の枝は雪の花を咲かせ、屋根も道路もすべてが真っ白に覆われていた。
まるで夜のうちに誰かが大きな絨毯を広げたかのようだった。
「先生、外、すごいですよ!」
美咲が慌ただしく玄関から飛び込んできた。
長靴の先には雪がこびりつき、頬も真っ赤だ。
玄関を開けると、冷たい空気が一気に流れ込む。
足跡のない真新しい雪が、朝日を受けてきらきらと輝いていた。
2 動物たちの第一歩
ベルが真っ先に庭に飛び出していった。
白い雪に足を取られながらも、大喜びで跳ね回る。
その後を女の子が追いかけて「待ってー!」と笑い声を上げる。
リクは慎重に雪の上に足を下ろし、感触を確かめるようにゆっくりと歩き出す。
肉球に伝わる冷たさに少し目を細めたが、それでも落ち着いた足取りで庭を一周する。
チャイは最初、雪に鼻を突っ込み「ひゃっ!」と飛び退いた。
しかし好奇心には勝てず、今度は雪を掘り返して大はしゃぎ。
モカはそんな弟分を半ば呆れたように見ながらも、結局一緒に雪玉を転がし始めた。
ユキは縁側に座り、しばらく雪景色を眺めていた。
その後、静かに庭に降り立ち、誰も足を踏み入れていない雪の上にスッと細い足跡を残していった。
白い毛と雪が溶け合い、まるで冬そのものの姿のようだった。
3 雪遊びの時間
女の子とベルは、庭で雪合戦を始めた。
女の子が丸めた雪玉を投げると、ベルは尻尾を振りながら追いかけ、鼻で弾き飛ばす。
その様子にチャイも参戦し、モカも仕方なく一緒に走り回る。
リクは雪玉を作る女の子のそばに座り、時折雪を舐めては不思議そうに空を仰いでいた。
「リクも一緒に遊ぼうよ!」と女の子が誘うと、リクは静かに尻尾を振り、雪玉を前足で軽く崩して見せた。
それだけで女の子は大喜び。
ユキは遊びには加わらず、庭の隅で小鳥たちが雪をついばむ様子をじっと見ていた。
それでもときどき振り返り、皆が楽しそうに駆け回るのを確かめているように見えた。
4 温かさのありがたさ
遊び疲れて中へ戻ると、待合室の薪ストーブが心地よく迎えてくれた。
美咲が慣れた手つきで薪をくべ、炎がパチパチと音を立てる。
「冷えた体にはこれが一番ですね」
美咲が笑うと、女の子も「手があったかい!」と嬉しそうに手をかざした。
ベルは女の子の足元で丸くなり、リクはストーブ横の定位置へ。
チャイとモカは毛布を取り合いながらも、やがて仲良く並んで眠りについた。
ユキは窓辺に座り、外の雪を見ながら静かに身を寄せていた。
5 雪の日の診察
雪の日でも病院には患者がやってくる。
長靴を履いたおばあさんが犬を連れてやってきたり、子どもが猫を抱いて駆け込んできたり。
「外、滑るから気をつけてくださいね」
美咲が声をかけると、皆口をそろえて「ここに来るのが大変だったよ」と笑った。
待合室ではストーブの温もりと動物たちの寝息が混ざり合い、雪の日特有の静けさを和らげていた。
患者の犬や猫も、どこか安心したようにストーブの近くで丸くなる。
ベルは新しく来た犬にそっと近づき、匂いを嗅いで挨拶をした。
チャイは知らない猫に興味津々で近寄ったが、モカに尻尾を引っ張られて止められていた。
リクは飼い主と一緒に座り、その安心感を分け与えるように寄り添っていた。
6 午後の雪景色
診察が一段落した午後、外を見ると雪はさらに積もっていた。
枝が重さに耐えきれず、時折「ぱさっ」と音を立てて雪を落とす。
病院の前の道には子どもたちの作った雪だるまが並び、冬らしい風景を彩っていた。
女の子も「わたしたちも作ろうよ!」と声を上げ、ベルと一緒に庭で大きな雪玉を転がし始めた。
チャイもすぐに参加し、モカはやれやれと手伝いながら大きな球を形にしていく。
リクは静かにその様子を見守り、時折雪玉を押して加勢する。
ユキは少し離れた場所で、冷たい風に毛を揺らしながら全体を見渡していた。
やがて庭には立派な雪だるまが完成した。
女の子がマフラーを巻きつけ、ベルが尻尾を振りながら完成を祝う。
7 夕暮れとともに
日が暮れ始めると、雪景色は薄紫色に染まり、病院の灯りが暖かく浮かび上がった。
動物たちはストーブの周りに集まり、それぞれの場所でくつろいでいる。
「今日はよく遊んだな」
そう言うと、美咲も「明日も雪が残ってたら、また作りましょう」と笑った。
女の子は眠そうな目をこすりながら「雪だるま、明日もあるかなぁ」とつぶやき、ベルに寄り添って目を閉じた。
外ではまだ雪が静かに降り続いている。
その音なき音が、病院全体を優しく包み込んでいた。
8 雪の夜
夜になっても雪はやまず、街はすっかり白銀の世界に変わっていた。
窓越しに眺める景色は幻想的で、ストーブの炎と合わさってどこか夢の中のようだった。
ユキが窓辺で静かに目を細め、チャイとモカが寄り添い合って眠る。
リクは変わらずストーブの横で穏やかに息をつき、ベルは女の子と一緒に毛布にくるまっていた。
その姿を見守りながら、私は「明日はもっと積もるかもしれないな」と小さくつぶやいた。
こうして病院の「本格的な雪の日」は、静かで温かな夜へと続いていった。




