「薪ストーブのぬくもり」
1 冬支度
冷たい風が病院の庭を吹き抜け、落ち葉が一気に舞い上がった。
朝の気温はぐっと下がり、吐く息は白く、手先まで冷たくなる。
「先生、そろそろ出しますか?」
美咲が倉庫から大きな鉄のストーブを押しながら声をかける。
そう、病院の待合室に毎年冬だけ出している小さな薪ストーブだ。
古くて少し錆びているが、火を入れると部屋全体が柔らかくあたたまる。
2 火の音
薪をくべて火をつけると、パチパチと木がはぜる音が響く。
オレンジ色の炎がガラス窓越しにゆらめき、待合室の空気を包み込む。
「わぁ……あったかい!」
女の子が両手をかざし、ベルもすぐそばに丸くなった。
リクはゆっくりとストーブの横に腰を下ろし、目を細めて眠る準備を始める。
チャイは好奇心で近づきすぎて、美咲に「危ないよ」と抱き上げられた。
モカはその様子を見て「だから言ったでしょ」とでも言いたげに尻尾を振る。
ユキは窓際に座り、炎の揺らめきをじっと見つめていた。
3 ストーブを囲んで
待合室に患者さんが集まる時間になると、自然と皆ストーブの周りに腰を下ろした。
寒い外から入ってきた人も、火のぬくもりにほっと顔を緩める。
「先生のところのストーブはいいですね」
おばあさんが子猫を抱きながら言う。
猫もごろごろと喉を鳴らし、ストーブの音に合わせるように心地よさを表していた。
女の子はベルと一緒に座り、本を読みながら時々火を見つめている。
美咲は薬の準備をしながらも、ちらちらとストーブに視線を送り、笑みを浮かべていた。
4 小さな出来事
昼過ぎ、チャイが薪置き場に潜り込み、木くずまみれになって出てきた。
「こら、そこは遊ぶ場所じゃない!」
美咲が慌てて払い落とすと、チャイはきょとんとした顔で尻尾を振る。
モカはそんな弟分を呆れたように見守りつつ、自分はストーブ前のベストポジションを確保。
ベルは女の子の膝に頭を乗せてすっかり夢の中。
リクは穏やかに横になり、炎の音に合わせてゆっくりと呼吸していた。
ユキは相変わらず窓辺から外を見つめていたが、ときどきストーブの前に来て座り込む。
5 夕暮れの火
日が傾き、待合室に柔らかな夕陽が差し込む頃、ストーブの火は少しずつ落ち着いてきた。
薪をくべ直すと、またパチパチと音がして炎が揺れる。
「今日も一日、よく燃えてくれたな」
そうつぶやくと、美咲も「ほんとですね」と笑った。
外は冷たい風が吹き続けている。
だが病院の中は、動物たちと人の笑顔、そして薪ストーブのぬくもりで満ちていた。
こうして、冬の病院の一日が静かに過ぎていった。




