「柿の木の下で」
1 秋の風に誘われて
晩秋の風が病院の庭を通り抜け、木々の葉をさらさらと揺らしていた。
朝の診察を終えて外に出ると、空はどこまでも高く澄み、吐く息がほんのり白く見える。
「先生、近所の農家さんの柿の木がすごいんですよ」
美咲が嬉しそうに報告してきた。
「今年は豊作らしくて、よかったら収穫を手伝ってほしいって声をかけてもらいました」
「柿か。もうそんな季節なんだな」
夏の暑さも、秋の鮮やかな紅葉も過ぎ、気づけば風は冷たくなり始めている。
「ベルたちも一緒に行けますよ」
「それはいいな」
こうして、午後はみんなで柿の木のある農家へ向かうことになった。
2 柿の木のある庭へ
農家の庭先に入ると、大きな柿の木がそびえていた。
枝いっぱいに実をつけ、夕陽を浴びて橙色に輝いている。
下には落ち葉が厚く積もり、ふかふかの絨毯のようだ。
「わぁ! すごい!」
女の子が歓声を上げた。ベルも一緒になって跳ね回り、落ち葉を舞い上げる。
リクは柿の木の根元にどっかり腰を下ろし、悠然と空を見上げた。
チャイは落ち葉を掘って遊ぼうとし、モカにすぐ止められる。
ユキは木漏れ日を浴びながら、落ち葉の上に香箱を組んで座り込んでいた。
「今年はよく実ったねぇ」
農家のおじいさんがにこやかに脚立を用意してくれた。
「鳥に食べられる前に、たくさん持って帰ってくれ」
3 柿もぎ体験
脚立に登るのは美咲と女の子の役目だ。
「よし、がんばるぞ!」
女の子が張り切って枝に手を伸ばす。
柿は大ぶりで、手にするとずっしりと重い。
「先生、見てください! こんなに大きい!」
女の子が高々と掲げると、下で待つベルが尻尾をぶんぶん振った。
チャイは転がり落ちた柿にじゃれつこうとするが、モカがさっと抱え上げて阻止する。
「だめだめ、食べちゃだめよ」
チャイは不満そうに鳴いたが、その表情がまた周囲を笑わせた。
リクは落ちてきた葉っぱを鼻で押しのけながら、のんびりと休んでいる。
ユキは落ちた柿にそっと前足を伸ばして転がし、まるで小さなおもちゃのように弄んでいた。
4 鳥たちの訪問
しばらくすると、木の上にスズメの群れがやってきた。
「チュンチュン」とにぎやかに鳴き、熟した柿の実をついばむ。
ベルが驚いて「ワン!」と吠えると、スズメたちは一斉に飛び立ち、空に舞い上がった。
「ほら、ベル、びっくりさせちゃだめだよ」
女の子がなだめると、ベルはしょんぼりして耳を伏せる。
その様子にリクが低く「ふん」と鼻を鳴らし、チャイは「次は自分が追いかける!」と身を乗り出した。
もちろんモカに阻止される。
ユキは相変わらずマイペースで、落ち葉の山の中で丸くなり、じっと目を閉じていた。
5 おやつの時間
柿の収穫が一段落すると、おじいさんが縁側でお茶を用意してくれた。
かごいっぱいに収穫した柿を並べ、切ってみんなで味わう。
「甘い!」
女の子は頬を輝かせながら、ジューシーな果肉をほおばった。
ベルには小さく切った柿を少しだけ。嬉しそうに尻尾を振りながら食べる。
リクはゆったりと座り、美咲の手からもらった果肉をゆっくり噛みしめていた。
チャイは大興奮で欲しがり、モカは控えめに差し出されたものを上品に受け取った。
ユキは柿には興味を示さず、縁側から庭の鳥たちを眺め続けていた。
お茶の香りと柿の甘さが、晩秋のひんやりした空気に溶けていく。
6 夕暮れの柿の木
日が傾き、柿の木の影が長く伸びていった。
「今日はたくさん取れたな」
美咲が柿の入ったかごを抱えながら言うと、女の子も嬉しそうに頷いた。
ベルは落ち葉の山に寝転び、リクはゆったりと伸びをする。
チャイとモカはじゃれ合い、ユキは最後まで落ち葉の上から動こうとしなかった。
「また来年も一緒に収穫しような」
おじいさんの声に、みんなが笑顔で返事をした。
秋の終わり、柿の木の下で過ごした一日は、あたたかな思い出として心に残った。




