「雪の日の待合室」
雪の朝
一月の半ば。
窓の外は一面の雪景色だった。
「ひだまり動物クリニック」の前の道路も白く染まり、時折、子どもたちの笑い声と雪玉の音が聞こえてくる。
私は玄関前を雪かきしてから扉を開けた。
吐く息は白く、手はすっかり冷えている。
「先生、おはようございます!」
美咲がストーブを点け、待合室の加湿器に水を足していた。
「雪、けっこう積もりましたね。今日は予約の方、来られるでしょうか」
「足元が悪いから心配だな。でも、体調を崩してる子は無理してでも来るだろう」
私はそう答えながら、診察室の準備を整えた。
午前の患者たち
最初にやって来たのは、加藤さんとリクだった。
雪道をゆっくり歩いてきたらしく、リクの背中にはうっすら雪が積もっていた。
「いやあ、大変だった。でもこの子は意外と元気でね」
加藤さんは笑っていたが、リクは少し寒そうに震えている。
タオルで体を拭き、体調を確認すると特に異常はない。
赤いバンダナは雪に濡れて少し色が濃くなっていた。
次に現れたのは、白猫のユキ。
キャリーの中で青い瞳を丸くし、雪の降る外を名残惜しそうに見つめている。
飼い主さんは「雪の日に保護したのを思い出します」としみじみ言った。
――そう、ユキにとって雪は特別なものなのだろう。
待合室のにぎわい
お昼前には、チャイとモカの兄弟猫もやって来た。
ご夫婦は「雪道で転びそうになっちゃって」と笑いながら入ってきた。
子猫たちは診察台で元気にじゃれ合い、ストーブの前では丸まって眠ってしまった。
その横で、先日やって来た子犬ベルがはしゃぎまわっていた。
「ベル、落ち着いて!」
女の子が声をかけても、ベルは嬉しそうにしっぽを振り、待合室を駆け回る。
窓の外の雪に気づいたのか、ガラス越しに鼻を押しつけて「ワン!」と吠えた。
さらに午後には、ウサギのミルクも登場。
男の子は「雪だるまと一緒に写真撮ったんだ!」と自慢げに見せてくれた。
ミルクは診察台の上で小さく鼻をひくひくさせ、白い毛が雪景色に溶け込むように見えた。
雪による小さなハプニング
午後の診察が終わるころ、病院の電気が一瞬ふっと消えた。
「停電!?」
美咲が驚いた声を上げる。
雪の影響で電線が一時的にやられたらしい。
幸い、すぐに電気は戻ったが、待合室は一瞬ざわついた。
チャイとモカは驚いて「にゃっ!」と飛び跳ね、ミルクは耳をぴんと立てて固まった。
ベルだけは「遊びだ!」と言わんばかりにさらに走り回る。
「大丈夫、大丈夫」
私はみんなをなだめながら、雪の日ならではの小さな出来事に、どこか可笑しさを感じていた。
静かな雪景色
夕方。
リク、ユキ、チャイ&モカ、ベル、ミルク――今日の顔ぶれが順に帰っていき、病院は静かになった。
外はまだ雪が降り続き、街灯に照らされた白い道がどこまでも続いている。
私は玄関前の雪をもう一度片付け、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「先生」
背後から美咲が声をかけた。
「雪の日って大変ですけど、なんだか動物たちの姿がいつもより温かく感じますね」
私は頷いた。
「そうだな。寒いからこそ、余計に温かさが際立つのかもしれない」
雪の降る夜。
病院の窓からこぼれる明かりは、小さな灯火のように静かに街を照らしていた。




