「渡り鳥を見送る朝」
澄んだ秋の朝
ある日の朝。病院の庭に出ると、空気がひんやりと澄んでいた。
「先生、見てください!」
美咲が空を指差す。
高い空をV字型の群れが飛んでいく。
「渡り鳥ですね。そろそろ南へ旅立つ季節か……」
鳴き声が風に溶け、空いっぱいに響いた。
動物たちも空を見上げて
ベルは女の子の隣で首をかしげながら、空を見上げる。
リクは堂々と胸を張り、じっと鳥たちの行方を追った。
チャイは「追いかけたい!」と飛び跳ね、モカが必死でリードを引く。
ユキは縁側に座り、まるで昔から知っているかのように穏やかな顔で鳥たちを見送っていた。
「人も動物も、同じように空を見上げるんですね」
美咲がぽつりとつぶやく。
小さな思い出
女の子は「ベルも一緒に飛べたらいいのにね」と笑い、
ベルは尻尾をぶんぶん振って応える。
チャイはまだ空を見てわんわん吠え、
モカが「届くわけないでしょ」と言いたげにため息をつく。
リクはその様子に耳をぴくりと動かすだけ。
ユキは陽だまりの中で毛づくろいをし、どこか満足げだった。
空の下で
しばらく空を見上げていたが、鳥たちの姿はやがて遠くへ小さくなっていった。
「行っちゃったね」
女の子が名残惜しそうに言う。
「また春になれば戻ってきますよ」
私はそう答えた。
渡り鳥の声が消えたあと、庭には虫の音だけが残った。
静かな朝の空気に、ほんのりと切なさが混じっていた。
その日の診察室で
診察が始まると、常連の飼い主さんが「今朝、鳥がたくさん飛んでましたね」と話しかけてきた。
どうやら町じゅうで同じ空を見上げていたらしい。
「同じ時間に、同じ空を見られるって素敵ですね」
美咲の言葉に、みんなが頷いた。
病院もまた、そんな空の下で静かに営まれているのだと改めて思った。




