「月見だんごと秋の夜」
お月見の準備
九月も半ば、空気が澄んできたある夕暮れ。
美咲が小さなお盆を持ってきた。
「先生、今日は十五夜ですよ。お団子を作ってきました!」
丸く白いお団子がきれいに並んでいる。
その隣にはススキの穂も添えられていた。
「すごいな、美咲さん。これじゃ病院の庭が立派なお月見会場ですね」
私も笑みをこぼした。
集まる仲間たち
夜になると、飼い主さんたちも集まってきた。
ベルは女の子と駆けてきて、庭に座り込む。
リクは堂々とした足取りで現れ、落ち着いて座った。
チャイは「何か食べ物の匂い!」と大はしゃぎし、モカが仕方なく付き添う。
ユキは静かにキャリーから出て、縁側に優雅に腰を下ろした。
みんなでお月見をするのは、初めてのことだった。
夜空と月
東の空から、ゆっくりと大きな月が昇ってきた。
丸く、明るく、澄んだ秋の月。
「きれい……」
女の子がベルを抱きしめながらつぶやく。
リクは首を上げ、月を真っ直ぐに見つめていた。
チャイは最初そわそわしていたが、やがて大人しく座り、
モカが少し驚いたように目を細める。
ユキは月の光を浴び、白い毛が銀色に輝いて見えた。
お団子とおやつ
人間たちはお月見団子を頬張り、温かいお茶をすすった。
「甘くて美味しいですね」
「秋はこういう時間がいいなあ」
笑い声が夜空に溶けていく。
動物たちには、さつまいもやかぼちゃで作った特製おやつを用意した。
ベルは大喜びで食べ、リクは静かに味わう。
チャイは一瞬で飲み込み、モカに叱られた。
ユキはゆっくりと口に運び、満足そうに喉を鳴らした。
月に願いを
「お月さまにお願いごと、してみましょうか」
美咲が言った。
女の子は「ベルとずっと一緒にいたい」と願い、
チャイの飼い主夫婦は「みんな元気に過ごせますように」と手を合わせた。
私は心の中で、この病院がこれからも笑顔であふれますようにと祈った。
その時、リクがふと空に向かって一声吠えた。
まるで願いを月に届けるように。
夜の終わり
お月見会が終わるころ、月はますます輝きを増していた。
ススキが揺れ、虫の声が庭を包む。
「来年もみんなで見たいですね」
美咲が言うと、女の子もうなずいた。
ベルは女の子の足元で丸くなり、リクは静かに伏せていた。
チャイとモカはじゃれ合い、ユキは縁側で最後まで月を見上げていた。
こうして、秋の夜長のひとときは、温かい記憶として胸に刻まれた。




