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動物病院日誌   作者: 匿名希望


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「お正月のウサギ」

新年の朝


元旦の朝は、街全体が少し静かだった。

冷たい空気の中にも、清々しい気配が漂っている。

「ひだまり動物クリニック」の前を通る人々は、初詣帰りらしく着物姿や晴れやかな顔が多い。


「先生、あけましておめでとうございます!」

病院に入ると、美咲が元気に頭を下げた。

手には小さな箱――おせち料理の詰め合わせを持っている。

「母が作りすぎちゃって、よかったらどうぞ」


「ありがとう。じゃあ、あとで一緒に食べようか」

そう言うと、美咲は嬉しそうに笑った。

お正月でも病院は完全に休みにはできない。動物たちの体調は日付を選ばないからだ。


元旦の患者


午前中にやってきたのは、常連のリクと加藤さんだった。

「初詣の帰りだよ。リクも一緒にね」

リクは赤いバンダナを巻いて、誇らしげにこちらを見つめていた。

診察台に上がっても落ち着いた様子で、体調も安定している。


「今年もよろしくお願いします」

加藤さんが丁寧に頭を下げる。

私は「こちらこそ」と答えながら、穏やかな新年の空気を感じていた。


その後には、チャイとモカの兄弟猫も登場。

ご夫婦は晴れ着姿で、「せっかくなので」と猫たちに小さな鈴付きの首輪をつけていた。

「にゃー!」

二匹は新しい首輪の鈴を鳴らしながら走り回る。待合室に笑い声が広がり、お正月らしい賑やかさを添えていた。


白いウサギとの出会い


昼過ぎ、一組の親子がキャリーケースを抱えてやってきた。

ケースの中には、真っ白な毛並みのウサギ。

耳が長く、つぶらな瞳をぱちぱちさせている。


「この子、“ミルク”っていいます。お年玉で飼い始めたんですけど、ちょっと心配で…」

小学生の男の子がそう言い、ケースのふたを開けた。


ミルクは怯えることなく、診察台の上で小さく鼻をひくひくさせている。

触診してみると体格はしっかりしていて、歯も爪も健康そのもの。

ただ、慣れない環境で少し食欲が落ちているようだ。


「大きな問題はないですよ。環境に慣れればすぐ元気になります」

そう伝えると、男の子の顔がぱっと明るくなった。


「よかった!ぼく、ミルクといっぱい遊ぶんだ!」


母親もほっとした表情で頷きながら、

「でも、遊びすぎて疲れさせないようにね」と優しく言った。


ちょっとしたハプニング


診察後、待合室で会計をしているとき、ミルクがケースからぴょんと飛び出した。

「わっ!」

男の子が声を上げる。


白い影が床を跳ね、リクの足元をすり抜け、チャイとモカの視線を一斉に集める。

「にゃっ!?」「にゃーっ!」

子猫兄弟が追いかけようとするのを、美咲が慌てて抱き上げた。


「待って待って!ミルクちゃん、こっち!」

私は両手を広げてしゃがみ込み、優しい声で呼びかける。

ミルクはぴたりと動きを止め、くんくんと鼻を鳴らしながらこちらに近づいてきた。

そっと抱き上げると、小さな体がぬくもりを伝えてくる。


「ごめんなさい!」

男の子が泣きそうな顔で謝った。

私は頭を振って笑いながら言った。

「大丈夫。ミルクちゃんも、まだ新しい環境に慣れていないだけですから」


男の子は安心したようにミルクを抱きしめ、

「これからは絶対に気をつけます!」と力強く約束した。


新年のひととき


夕方、ユキの飼い主が新年の挨拶に立ち寄った。

キャリーの中でユキは静かに座り、青い瞳をこちらに向けている。

「今年もよろしくお願いします」

その言葉に、私は「こちらこそ」と返した。


待合室にはリクやチャイ&モカ、そして新しく加わったミルクの姿。

人も動物も集まり、自然と笑顔が広がる。

まるで小さな新年会のようだった。


一日の終わりに


夜。診察室の片付けを終えると、美咲がおせちの箱を開けた。

黒豆に伊達巻、そして小さな栗きんとん。

「先生、動物たちのおかげでにぎやかな一年の始まりになりましたね」


私は頷きながら、窓の外を見た。

街灯の下で、粉雪が静かに舞っている。


「そうだな。今年も、いい一年になりそうだ」


その言葉に、美咲が微笑んだ。

動物たちと飼い主たちの絆に囲まれて――この病院に新しい一年が始まった。

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