「夏祭りの金魚」
夜店のあとに
八月の蒸し暑い夕方。
病院の玄関が開き、浴衣姿の子どもたちが元気いっぱいに駆け込んできた。
手に持っているのは、ぷかぷかと金魚が泳ぐビニール袋。
「先生! 金魚すくいで取ったんだけど、どうやって育てたらいいの?」
息を弾ませながら見せてくれる。
赤や白の小さな金魚が、透明な袋の中でくるくると泳いでいた。
美咲は目を丸くして「にぎやかですね」と笑った。
夏祭りの熱気をそのまま持ち込んできたような子どもたちに、待合室も明るくなった。
待合室のにぎわい
そこへちょうど、常連たちもやってきた。
ベルは興味津々で袋に鼻を近づけ、女の子は「ベル、びっくりさせないで!」と慌てて引き離す。
リクは少し距離を置いて静かに眺め、チャイは大興奮で袋をつつこうとし、モカが必死に止める。
ユキは涼しげな顔で、金魚の赤い影をじっと目で追っていた。
「わあ、動物園みたいだ!」
子どもが声を上げると、待合室は笑い声に包まれた。
金魚のことを学ぶ
診察室に移り、簡単に金魚の飼い方を説明する。
「最初は水道水をそのまま使わず、汲み置きしてから。えさもあげすぎないようにね」
子どもたちは真剣にうなずき、母親たちもメモを取っていた。
「動物病院なのに、金魚の先生にもなるんですね」
美咲が笑い、私も苦笑いした。
小さな交流
診察のあと、庭に出て子どもたちは金魚を大事そうに抱えて見せ合っていた。
「うちのは赤が多いでしょ」
「ほら、こっちは白が入ってるよ」
ベルは子どもたちの後ろで尻尾を振り、リクは木陰から見守る。
チャイは袋を狙ってジャンプし、モカに叱られる。
ユキは夕暮れの光の中で、静かに金魚の袋を眺めていた。
金魚はただ泳いでいるだけなのに、子どもも大人も動物も、みんな笑顔になっていた。
夏の終わりの気配
日が沈み、子どもたちは金魚を大事に抱えて帰っていった。
「また大きくなったら見せに来てね!」
美咲が声をかけると、子どもたちは元気に手を振った。
ベルは名残惜しそうに吠え、リクは静かに見送り、チャイは最後まで騒ぎ、モカがため息。
ユキは夕闇の中で白い毛を輝かせていた。
夜 余韻
病院に静けさが戻ったあと、美咲が言った。
「夏祭りって、金魚も一緒に思い出になるんですね」
私はうなずいた。
小さな袋の中の命が、こんなにも人と動物をつなげてくれる。
夏の夜の余韻を感じながら、風鈴の音が涼やかに響いた。




