「迷子のカメ」
朝 思わぬ来訪者
夏の朝、まだ空気が少し涼しい時間に、病院のドアが開いた。
入ってきたのは近所のおじいさん。両手には段ボール箱を抱えている。
「先生、ちょっと見てほしいもんがありましてな」
箱をそっと置いて開けると、中には甲羅を持つ生き物――カメだった。
「庭に迷い込んできたんじゃが、うちの子じゃないし……」
カメはのんびりと首を伸ばし、こちらをじっと見上げてきた。
「なるほど、迷子のカメですね」
思わぬ来訪者に、美咲も目を丸くしていた。
待合室の反応
待合室にカメが入ると、犬たちが一斉に反応した。
ベルは「なにこれ!?」とばかりに吠え、女の子は「カメさんだ!」と大喜び。
リクは落ち着いて距離を取り、静かに観察している。
チャイは大興奮で突進しようとし、モカが必死にリードを引いた。
ユキは不思議そうに首をかしげながら、静かに見つめていた。
「待合室がちょっとした動物園みたいですね……」
美咲が苦笑した。
診察と観察
診察室でカメを持ち上げ、体を確認する。
甲羅に傷はなく、手足も健康的に動いている。
「どうやら健康そうですね。ただ少し乾燥気味かな」
おじいさんは安心した様子でうなずいた。
「飼い主さんが見つかるといいんですが……」
庭でのお披露目
午後、カメを一時的に庭に出してみると、動物たちが次々と集まってきた。
ベルはカメの後ろを追いかけ、女の子が「そっとね!」と声をかける。
リクは静かに横に座り、まるで護衛のよう。
チャイは甲羅をつつこうとしてモカに怒られ、ユキは影の中でじっと見守っていた。
カメは周りの騒ぎに動じず、のんびりと草を食べ続けている。
その姿に、大人たちも子どもたちも思わず笑顔になった。
飼い主との再会
夕方、おじいさんが再び病院にやって来た。
「飼い主が見つかったんじゃ。ご近所さんが探しておってな」
間もなく、カメの飼い主である少年と家族が駆け込んできた。
「カメ吉!」
少年が呼ぶと、カメはゆっくり首を伸ばし、じっと見上げた。
その反応に、少年は涙ぐんで抱きしめる。
「よかったですね」
美咲がにっこりと笑った。
夜 余韻の中で
カメが帰ったあと、病院は再び静けさを取り戻した。
「動物って、犬や猫じゃなくても、やっぱり家族なんですね」
美咲の言葉に、私はうなずいた。
のんびりしたカメの姿は、病院に小さな騒動と、大きな笑顔を残していった。




