「初夏の風鈴」
朝 届いた小包
六月のある朝。
病院に一つの小包が届いた。差出人は、美咲の友人で、ガラス工房を営んでいる人からだった。
箱を開けると、中には色とりどりのガラスの風鈴が入っていた。
透明な硝子に金魚や朝顔の絵が描かれ、陽の光を浴びてきらめいている。
「わあ……きれい」
美咲は思わず息をのむ。
同封された手紙には「動物病院の夏を、少しでも涼しくできれば」と書かれていた。
昼前 風鈴を飾る
玄関先にひとつ、待合室の窓辺にひとつ、そして庭の木陰にもいくつか吊るした。
風が吹くたび、ちりん、と柔らかい音が響き渡る。
その音に、来院した動物たちが反応を見せた。
ベルは首をかしげ、女の子は「鈴みたい!」と笑った。
リクは音に耳を澄ませるように目を閉じ、ユキは風にたなびく短冊をじっと見つめた。
チャイは大興奮でジャンプし、モカが「やれやれ」と言いたげに隣に座った。
待合室のひととき
「風鈴の音って、涼しく感じるね」
女の子がベルを撫でながら言う。
「本当に。不思議ですね、気温が下がるわけじゃないのに」
加藤さんも微笑んだ。
窓の外で風鈴が鳴るたび、待合室には静かな間が流れた。
診察を待つ時間さえ、少しだけ心地よくなる。
午後 庭での出来事
午後、庭に出ると、木陰の風鈴がちりんと揺れていた。
ベルは追いかけるように走り回り、チャイも負けじとジャンプ。
モカは「しょうがないな」という顔で見ている。
リクは木陰に座り、音を聞きながらうとうと。
ユキは音に導かれるように歩き、木漏れ日の中で立ち止まった。
その姿は、風鈴の音とひとつになっているようだった。
夕方 贈り物の意味
一日の終わり、玄関先の風鈴が夕風に鳴った。
「贈り物って、物そのものより、そこに込められた気持ちが響くんですね」
美咲がぽつりとつぶやく。
私はうなずいた。
風鈴の音は、動物や人の心に静かにしみ込み、暑さを忘れさせてくれる。
そして病院に訪れるすべての人に、やさしい気持ちを届けてくれる。
今日、風鈴が病院に来たのは、きっと夏を迎える準備の合図だったのだろう。




