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動物病院日誌   作者: 匿名希望


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「美咲の年末日記」

12月27日 朝


「おはようございます!」

冬休みに入った学生さんたちが街にあふれ、商店街は年末セールで賑やか。

でも、私にとってはいつも通りの朝。

先生と一緒に「ひだまり動物クリニック」の扉を開けるところから、一日が始まる。


診察室のストーブを点けるのも、待合室の雑誌を整えるのも、もうすっかり私の日課だ。

この時期は冷えるから、待っている飼い主さんや動物たちが少しでも暖かく過ごせるように――。


先生はカルテを確認しながら、静かに「今日は多いな」とつぶやいた。

年末は診てもらって安心して新年を迎えたい、という人が多いらしい。

確かに、今日の予約表にはぎっしり名前が並んでいた。


午前 チャイとモカ


最初にやって来たのは、もうすっかり常連の子猫兄弟。

キャリーの中で「にゃあにゃあ」と元気に鳴き、診察台の上でもぴょんぴょん跳ねる。


「先生、この子たち大きくなりましたよね」

私は思わず声をかける。

先生は笑ってうなずき、体重を量りながら

「順調だね。ご夫婦の愛情の賜物だよ」

と優しく言った。


奥さんが「先生と美咲さんのおかげです」と言ってくださって、胸がじんわり温かくなった。

私はまだまだ勉強中で、先生みたいに診察はできない。

でも、飼い主さんの笑顔を見られるのは本当に嬉しい。


午後 リクの来院


お昼過ぎ、加藤さんに連れられてリクがやって来た。

赤いバンダナをつけたリクは、冬の冷たい空気をまとっているのに、どこか凛々しく見える。


「リク、今日も元気そうですね」

私が声をかけると、リクはゆっくりしっぽを振ってくれた。

加藤さんは笑いながら

「この子がいてくれるから、年越しも穏やかに過ごせそうだよ」

と話してくれた。


診察のあいだ、私はリクの頭をなでながら、ふと思った。

来年の今ごろも、こうして元気でいてくれるだろうか。

そんな小さな不安をかき消すように、リクは私の手に鼻先を押しつけてきた。

――大丈夫。今はこの瞬間を大切にしよう。


夕方 ユキの青い瞳


閉院前、白猫のユキが来た。

青い瞳は変わらず澄んでいて、飼い主さんは「今年も元気で年を越せます」と笑っていた。


診察が終わり、キャリーに戻るユキを見送るとき、先生が小さく

「来年もこの青い瞳に会えるといいな」

とつぶやいたのを、私は聞き逃さなかった。


先生は動物たちの未来を、私以上に深く想っている。

その姿に触れるたび、「私もこんな風になりたい」と心から思う。


夜 片付けと独り言


一日の診察が終わり、カルテを整理して机を拭く。

外はすでに暗く、商店街のイルミネーションがきらめいている。


「美咲さん、今日もありがとう」

先生がそう言ってくれた。

私は「いえいえ!」と笑いながら、心の中で少しだけドキドキする。

先生のそばで働けることが、私にとってどれだけ特別なことか――まだ伝えられないけれど。


12月31日 大晦日


年末最後の診察も無事に終わり、病院の明かりを落とす。

窓の外に舞う雪を見ながら、私は心の中で小さく日記をつける。


今年もたくさんの動物と飼い主さんに出会った。

先生の隣で過ごす毎日は大変だけど、かけがえのない時間。

来年も、もっと頑張ろう。もっと笑顔を増やそう。


ポケットの中で、先生からもらった小さな鈴のお守りが鳴った。

それは「来年もよろしくね」という、静かな約束の音に思えた。

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