「梅の香りに包まれて」
朝 白い花の開花
三月半ばの朝。
病院の玄関脇にある小さな梅の木に、白い花がほころんでいるのに気づいた。
まだ肌寒い風の中、凛とした香りが漂っている。
「先生、梅が咲きましたよ!」
美咲が笑顔で指差す。
その声に私も外へ出て、しばし花を眺めた。
「春が近いな」
待合室での話題
午前の診療。
ベルと女の子がやってきて、さっそく梅の花を見つけた。
「お花きれい!」
女の子がベルと一緒に枝を見上げ、ベルは鼻をひくひくさせていた。
リクと加藤さんも到着し、「梅は昔から縁起がいいと言われますね」と静かに語った。
待合室では自然と梅の花の話題になり、香りや思い出を分かち合う時間が流れた。
午後 チャイとモカ
午後に来たチャイとモカの夫婦も、玄関前でしばらく足を止めて花を見上げていた。
「桜よりも早く咲くから、春の始まりを実感しますね」
奥さんが言うと、旦那さんは「チャイは花びらを食べないか心配だ」と笑った。
待合室では「犬にとっての春ってなんだろうね」と話が広がり、飼い主同士の会話が弾んだ。
ユキと梅の香り
夕方、ユキと飼い主の女性が来院。
ユキは白い毛並みを風に揺らしながら、梅の花の下で立ち止まった。
その姿は、花と同じくらい凛として美しかった。
「ユキはお花が好きなんです。じっと見つめていると、私まで落ち着くんです」
女性の声に、待合室にいたみんなが優しくうなずいた。
思い出を語る時間
診療が終わったあと、待合室では自然と昔話になった。
「子どものころ、梅の木に登って遊んだなあ」
「梅干しを漬ける手伝いをしたことがあります」
「花の香りを嗅ぐと、なぜか懐かしくなるね」
犬たちは足元でくつろぎ、人々の声と梅の香りが混ざり合い、春らしい柔らかな空気が広がった。
夜 静かな余韻
すべての診療が終わり、玄関を閉めるとき、ふと梅の木を見上げた。
白い花が夜の闇に浮かび、ほのかな香りが漂っている。
「花って不思議ですね。見るだけで心がやわらぐんですから」
美咲の言葉に、私は頷いた。
冬の名残の冷たさの中、確かに春が近づいている。
梅の花は、そのことを静かに教えてくれていた。




