表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
動物病院日誌   作者: 匿名希望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/140

「ひな祭りのベル」

朝 桃の花を飾る


三月三日の朝。

美咲が受付に、桃の枝を花瓶に活けていた。まだつぼみも多かったが、ところどころ淡い桃色の花が咲いている。


「今日はひな祭りですからね」

美咲が微笑む。

待合室がふんわりと華やぎ、まだ寒い外の空気とは違う春の気配が広がった。


女の子とベルの到着


午前の診療が始まるころ、ベルと女の子がやってきた。

女の子は桃色のリボンを髪につけ、手には小さな折り紙のお雛様を抱えている。


「先生、これ作ったんです!」

折り紙のひな人形は少し歪んでいたが、色とりどりで温かみがあった。


「すごいな。飾らせてもらおう」

私は受付の桃の花の横に置いた。

ベルはしっぽを振り、まるで自分が作ったかのように胸を張っていた。


待合室のひな祭り


その後も診察に来た飼い主たちが、桃の花や折り紙を見て話題にした。


「かわいいですね」

「うちの子にも見せたいな」

「ひな祭りって、女の子だけのお祝いかと思ってたけど、こうして見ると家族の行事ですね」


リクの飼い主の加藤さんは「昔、娘に雛人形を買ってやったなあ」と懐かしそうに語り、チャイとモカの夫婦は「我が家は片付けが大変で……」と笑っていた。


ユキの飼い主は桃の花を見つめて「春が来るんだなあ」とつぶやいた。


女の子の願い


診察を終えたあと、女の子が少し恥ずかしそうに言った。

「ベルも女の子だから、ひな祭りしてあげたいの」


私は笑いながら「そうだな。ベルにも今日は特別なお祝いをしてやらなきゃな」と答えた。

美咲は急いで紙皿を持ってきて、犬用のおやつを可愛く並べ、「ベルのおひなさまケーキ」に仕立てた。


女の子は目を輝かせ、ベルはしっぽをぶんぶん振って大喜びで食べていた。


夕方 思い出の飾り


夕方になると、女の子とベルは帰っていった。

「先生、折り紙はここに置いていいですか?」

女の子の声に、私は「もちろん」と答えた。


折り紙のお雛様は、桃の花と一緒に待合室に残った。

患者さんが帰ったあとも、その小さな飾りが温かな余韻を漂わせていた。


夜 春の気配


診療が終わり、美咲が受付を片付けながら言った。

「今日は待合室が明るかったですね。お雛様と桃の花のおかげです」


私はうなずいた。

「季節を感じるものがあると、人の心も動物の表情もやわらぐな」


窓の外にはまだ冷たい風が吹いていたが、心には春の灯りがともっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ