「灯りの中で」
夕方 突然の暗闇
二月の夕方。
診療が落ち着いてきたころ、突然「バチッ」と音がして、病院の照明が消えた。
外の街灯も真っ暗になり、窓の外には冷たい夜の闇が広がっていた。
「先生、停電です!」
美咲が慌てて懐中電灯を点ける。
白い光が壁を照らし、待合室に小さな明かりが戻った。
少しずつ集まる人たち
やがて、近所の飼い主さんたちが様子を見にやって来た。
「真っ暗で不安だから、ここに来ました」
「犬も落ち着かなくて……」
ベルと女の子も、リクと加藤さんも、チャイとモカの夫婦も、そしてユキの飼い主も。
いつもの顔ぶれが集まってきて、暗い病院がにぎやかになった。
キャンドルの灯り
美咲が受付からキャンドルをいくつか取り出して火を灯すと、オレンジ色の光がふんわり広がった。
蛍光灯の明かりよりも柔らかく、どこか懐かしい雰囲気になる。
「わあ、きれい……」
女の子が小さな声でつぶやき、ベルが隣でしっぽを振った。
ユキは静かにキャンドルを見つめ、その横顔がまるで絵画のように美しかった。
動物たちの過ごし方
リクは足元に伏せ、加藤さんの膝に顎をのせて安心した表情。
チャイは暗闇でも元気に動こうとして、夫婦に「落ち着いて!」と制されていた。
モカはそんなチャイを見て、ため息をつくように丸くなった。
「みんな一緒にいるから安心だね」
美咲の言葉に、飼い主たちが頷いた。
小さな語らい
暗闇の中、自然と会話が生まれた。
「昔は停電もよくありましたよ」
「ランプの光で勉強したことがあります」
「こうして犬たちと一緒にいると、不思議と怖くないですね」
キャンドルの炎が揺れるたびに、笑い声が混じり合い、静かな夜が少しずつ温かいものに変わっていった。
復旧と余韻
やがて「パッ」と音がして、照明が一斉に点いた。
人々は一瞬まぶしそうに目を細め、それから笑顔になった。
「ちょっと残念ですね。もう少しこの雰囲気を味わいたかったかも」
誰かがそう言い、みんなが頷いた。
飼い主たちは「ありがとう」と言いながら帰っていき、病院にはいつもの日常が戻った。
夜 静かな光
全員が帰ったあと、私は机の上に残った小さなキャンドルを見つめた。
火を消すと、かすかに温もりが残る。
「ほんの少しの光でも、人と動物をつなぐんだな」
美咲がしみじみと言った。
外はまだ冷たい夜。
でも心には、不思議と温かな灯りが残っていた。




