表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
動物病院日誌   作者: 匿名希望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/137

「小さなハート」

朝 ハート型の袋


二月の中旬。

受付の机に、美咲が小さな赤い袋を置いていた。

ハート柄のリボンが結ばれたその袋は、明らかにバレンタイン仕様。


「先生、飼い主さんにいただいたんです。手作りクッキーだそうです」

袋を少し開けると甘い香りが広がった。


「動物にはあげられないけど、人間には嬉しい贈り物ですね」

美咲はにこにこと微笑んだ。


午前 ベルと女の子からの贈り物


最初にやってきたベルと女の子。

女の子はカバンから一生懸命包んだ折り紙のハートを取り出した。


「先生と美咲さんにあげる!」


カラフルな折り紙には「ありがとう」の文字が大きく書かれていた。

ベルは得意げにしっぽを振って、まるで「ぼくも手伝ったよ」と言っているようだった。


「これは特別なバレンタインだな」

私は心からそう思った。


午前後半 リクと加藤さんのチョコ話


次に来たリクと加藤さん。

待合室では「チョコを犬にあげちゃだめですよね?」という話題が出ていた。


「そう、チョコレートは中毒を起こすから危険なんです」と美咲が説明する。

すると加藤さんが「じゃあ先生には安全にこれを」と笑いながら小さな和菓子の包みを差し出した。


「ありがとうございます。リクはちゃんと犬用クッキーだね」

リクは自分のおやつを口にして、満足そうに目を細めた。


昼 チャイとモカのにぎやかな差し入れ


昼に来たチャイとモカの飼い主夫婦。

「バレンタインだから、皆さんでどうぞ」と手作りマドレーヌを持ってきてくれた。


待合室では「わあ」「おいしそう」と歓声があがる。

チャイは袋の匂いに興味津々で鼻を伸ばし、モカは落ち着いた顔で隣に座っていた。


「犬たちにはこっち」

奥さんが取り出したのは犬用ビスケット。

人も犬も一緒に「おやつの時間」を楽しめる工夫に、場が一層和やかになった。


午後 ユキと温かな心


午後に来たユキの飼い主の女性は、小さなカードを差し出した。

そこには「いつもありがとうございます」と丁寧な文字で書かれていた。


「甘いものは作れないので、気持ちだけでも」

ユキは隣で静かに座り、まるで贈り物を誇らしげに守っているようだった。


「こういうのが一番嬉しいんです」

私は胸の奥が温かくなるのを感じた。


夕方 小さな交換会


夕方になると、自然と待合室に「小さな交換会」のような空気が生まれた。

クッキー、マドレーヌ、飴、折り紙のハート。


「人用」「犬用」と分けられたおやつが並び、飼い主たちと動物たちが一緒に楽しむ。

「みんなで食べるとおいしいね」と笑い声が広がり、病院はまるでカフェのような賑わいを見せた。


夜 ハートの余韻


診療を終えたあと、机の上には今日いただいた贈り物が並んでいた。

色とりどりの袋やカード、そして折り紙のハート。


「先生、今日はバレンタインなのに、なんだかこちらがいっぱいもらってしまいましたね」

美咲が笑う。


「うん。贈り物って形よりも気持ちなんだな」

私は机の上のハートを見つめながらつぶやいた。


病院にはまだほんのり甘い香りが残っていて、それが温かな一日の余韻となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ