「小さな訪問者」
朝 ドアの前の影
二月の冷たい朝。
病院の玄関前で、美咲が「あっ」と声を上げた。
そこには、小さな黒白の猫が座っていた。
まだ若そうで、毛並みは少し乱れているが、目はまっすぐこちらを見つめていた。
「先生、この子、野良猫でしょうか」
声をかけても逃げず、ただじっと座っている。
午前 ベルと女の子の出会い
最初に来たベルと女の子。
玄関の前に猫がいるのを見つけ、女の子が小さく歓声を上げた。
「わあ、猫ちゃん!」
ベルは吠えることもなく、好奇心いっぱいに鼻をひくひくさせた。
猫は少し体を丸めたが、逃げる様子はない。
「仲良くできそうね」と美咲が微笑んだ。
午前後半 リクの静かな挨拶
次に来たリクと加藤さん。
リクは玄関前の猫を見つけると、立ち止まり、静かに見つめた。
猫もまた目を細めて応える。
「なんだかお互いに『こんにちは』って言ってるみたいだね」
加藤さんが笑った。
待合室では「野良猫に出会ったらどうする?」という話題になり、餌をやる人、遠くから見守る人、それぞれの思いが語られた。
昼 チャイとモカの反応
昼に来たチャイとモカ。
チャイは玄関先の猫を見つけて、しっぽをブンブン振りながら近づこうとした。
「チャイ、落ち着いて!」
奥さんが慌ててリードを引く。
一方モカは猫を一瞥すると、すぐに病院の中へ入っていった。
「モカは大人だなあ」とご主人が笑った。
猫は動じず、ただじっと日向に座っていた。
午後 ユキと小さな影
午後に来たユキ。
玄関の前を通ると、猫がゆっくりと立ち上がり、ユキを見上げた。
ユキは少しだけ鼻を寄せ、すぐに離れた。
「なんだかお互いに認め合っているみたいね」
飼い主の女性が柔らかくつぶやく。
猫はその後、待合室の窓辺に移動し、外からじっと中を眺めていた。
夕方 差し入れと気づかい
夕方になると、飼い主のひとりが「この子にどうぞ」と小さなキャットフードを持ってきてくれた。
美咲が病院の横にそっと置くと、猫は静かに近づいて食べ始めた。
「ちゃんと食べられるんだね」
みんなが安心したように見守る。
病院は動物の治療の場だけれど、こうして偶然の出会いで心がつながることもあるのだと実感した。
夜 また会えるかな
診療が終わり、外に出ると猫の姿はなかった。
「どこか暖かい場所に行けたのかな」
美咲が少し寂しそうに言った。
「でもまた来るかもしれないさ。ここが安心できる場所ならね」
私は玄関の灯りを見上げた。
白い吐息の中に、小さな影がまた現れる日を願いながら。




