「冬の散歩道」
朝 凍りついた道
二月の朝。
病院に向かう途中、アスファルトが薄い氷に覆われているのが見えた。
日の当たらない場所は白く光り、歩くとキュッキュッと音がする。
「先生、気をつけてくださいね。今日は滑りますよ」
美咲が雪かき用の砂を玄関前にまいていた。
「散歩中に転んだ犬や飼い主さんも来るかもしれないな」
私は苦笑しながら中に入った。
午前 ベルと女の子の武勇伝
最初にやってきたのはベルと女の子。
女の子は元気いっぱいだったが、手袋の片方が泥で汚れていた。
「さっき滑っちゃって、ベルに引っ張ってもらったんです!」
得意げに話す女の子に、待合室の大人たちが「無事でよかったね」と声をかける。
ベルは誇らしげに胸を張り、しっぽをぶんぶんと振っていた。
午前後半 リクと慎重な歩み
次に来たリクと加藤さん。
「いやあ、今日は歩くのに時間がかかりました」
靴底には滑り止め用のゴムカバーがつけられていた。
「昔一度、凍った道で転んで大変だったのでね」
リクも慎重に足を運んでいたらしく、足元は濡れていない。
待合室では「どうやって散歩してる?」という話題で盛り上がり、飼い主同士の知恵が飛び交った。
昼 チャイとモカ、はしゃぎすぎ注意
昼ごろに来たチャイとモカの飼い主夫婦。
「チャイがはしゃいで滑っちゃって、危うく私も転びそうになりましたよ」
奥さんが苦笑する。
チャイはキャリーから顔を出して尻尾を振り、まるで「楽しかった!」と言っているよう。
一方モカは大人しく座り、「あの子は元気すぎるんだから」とでも言いたげに目を細めていた。
「犬の性格でも全然違うんですね」と美咲が感心した。
午後 ユキと静かな足跡
午後に来たユキは、白い毛並みに雪の粒を少しつけていた。
「滑らないように、ゆっくり歩いてきました」
飼い主の女性が息を整えながら言った。
ユキは穏やかに待合室の床に座り、まるで外の雪道の静けさをそのまま連れてきたかのようだった。
「雪の上に足跡がきれいについて、ちょっと散歩道が絵みたいでした」
女性の言葉に、待合室の人たちも微笑んだ。
夕方 散歩の知恵袋
夕方になると、待合室はまるで「冬の散歩教室」のようになった。
「靴に砂をまくといいよ」
「犬にも滑り止めのブーツがあるんだって」
「うちは小型犬だから、抱っこして歩く場所もあるんですよ」
飼い主たちの体験談が飛び交い、笑い声が絶えなかった。
動物たちもそんな雰囲気に安心したのか、落ち着いて過ごしていた。
夜 白い道と月明かり
診療を終え、病院を閉めるころ。
外の道は再び冷え込み、昼間溶けた雪がまた凍り始めていた。
「先生、帰り道、本当に気をつけてくださいね」
美咲が声をかける。
「そうだな。みんなも同じ空の下で気をつけながら歩いてるんだろう」
月明かりに照らされた白い散歩道は、凍って危険でありながらも、どこか静かで美しかった。




