「冬のお茶会」
朝 甘い香りの差し入れ
一月の寒い朝。
病院を開けるとすぐに、常連の佐藤さんが手提げ袋を抱えてやってきた。
「先生、おはようございます。昨日焼いたカステラなんですけど、よかったら皆さんで」
ふわりと漂う甘い香りに、待合室が一瞬で温かくなった。
美咲も「わあ、嬉しいです!」と目を輝かせる。
午前 ベルとおまんじゅうの香り
午前に来たベルと女の子。
別の飼い主さんが持ってきていたおまんじゅうの袋から、ほんのりと湯気が立っていた。
「ベルにはあげられないけど、いい匂いだね」
女の子が笑いながらベルの頭を撫でる。
ベルは鼻をひくひくさせ、でも吠えたりせず、おとなしく待っていた。
待合室の人たちもつい顔をほころばせる。
午前後半 リクと熱いお茶
加藤さんとリクが来たころ、美咲がお茶の急須を持ってきた。
「寒いですから、どうぞ」
紙コップに注がれた温かい緑茶から、ほわりと湯気が上がる。
「いやあ、ありがたいですね」
加藤さんは両手でコップを包み、ゆっくりと口に運んだ。
リクは足元に座り、落ち着いた表情で周りを見渡す。
お茶をすする音とストーブの温もりで、待合室は穏やかな冬の午後のようだった。
昼 チャイとモカ、みかんの香り
お昼過ぎに来たチャイとモカの飼い主夫婦は、袋いっぱいのみかんを持ってきた。
「診察のついでにどうぞ。風邪予防にもなりますから」
テーブルの上に転がされたみかんは色鮮やかで、冬らしい香りが広がった。
「チャイ、みかんは食べられないけど、いい匂いでしょ」
奥さんが言うと、チャイは鼻を近づけてくんくんと匂いをかいだ。
モカは控えめにしっぽを揺らし、穏やかにその様子を見ていた。
午後 ユキと静かな時間
午後、ユキがやってきたころには、待合室はすっかり「お茶会」のような雰囲気になっていた。
テーブルにはカステラ、みかん、おまんじゅう。
湯気の立つお茶が置かれ、飼い主たちの会話が弾む。
ユキの飼い主さんも腰を下ろし、「ほんとに病院じゃなくて集会所みたいですね」と笑った。
ユキは窓辺に座り、そんな人々の姿を静かに眺めていた。
夕方 小さな交流の輪
夕方、診療の合間に私と美咲もお茶をいただいた。
「こういう時間があると、病院がもっとあったかく感じますね」
美咲の言葉に、私も頷いた。
「動物の治療だけじゃなくて、人の心も癒される場所になればいい」
その日の待合室は、まるで冬の陽だまりのように優しい空気で満たされていた。
夜 残り香と余韻
夜になり、すべての診療が終わったあと。
テーブルには食べきれなかったみかんが数個、そして甘いカステラの香りが残っていた。
「先生、今日の病院、まるでお茶会でしたね」
美咲が笑う。
「そうだな。動物たちもきっと、居心地がよかったはずだ」
冷たい夜気の中でも、病院の中にはまだ、温かな余韻が漂っていた。




