「満月の帰り道」
朝 冷たい光の始まり
一月も半ばを過ぎたある日。
朝の空気は張りつめるように冷たく、吐く息が白く漂った。
「先生、今夜は満月だそうですよ」
美咲がカレンダーを見ながら言った。
「冬の満月はよく見えるからな。診察帰りの人たちも楽しめるだろう」
小さな会話が、どこか静かな一日の予感を含んでいた。
午前 ベルと昼の空
午前にやってきたのはベルと女の子。
診察を終えると、女の子は窓から青空を見上げた。
「夜にはお月さま出るんだよね」
「ベルと一緒に見られるね」
女の子の声に、ベルは首を傾げてしっぽを振った。
空はまだ昼の色をしているけれど、すでに月を待っている気配があった。
午後 リクと加藤さんの思い出
午後に来たリクと加藤さん。
加藤さんは診察を終えると、窓の外を見ながら言った。
「昔、よく犬と一緒に夜散歩して、月を眺めたもんです」
リクの頭を撫でながら、少し懐かしそうに微笑む。
「今夜もきっと、リクと歩きながら見ることになりますね」
「そうですね。冷えるけど、いい思い出になるでしょう」
リクは静かに尻尾を振り、まるで言葉を理解しているかのようだった。
夕方 チャイとモカ、帰り道の約束
夕方に来たチャイとモカ。
診察を終えて玄関を出ると、空は群青に変わり始めていた。
「今日は満月だって、知ってた?」
奥さんが夫に声をかける。
「帰りにチャイとモカと一緒に見ようか」
二人の会話に、チャイははしゃぎ、モカは落ち着いた様子で寄り添った。
病院の前の雪に淡い光が差し、夜の幕開けを告げていた。
夜 ユキと満月
夜、最後に来たのはユキ。
診療が終わり、外に出たとき、東の空に大きな満月が昇っていた。
「まあ、きれい……」
飼い主の女性が思わず声を上げる。
ユキは静かに空を見上げ、白い毛並みが月光に照らされて輝いていた。
まるで月とユキが響き合っているようで、周囲の人々は息を呑んだ。
病院を閉めて
診療が終わり、病院の鍵をかけるころ。
外には冷たい空気と、澄み切った月の光だけが広がっていた。
「先生、帰りに少し歩きませんか。お月見しながら」
美咲の提案に、私は頷いた。
道を歩くと、ベルやリク、チャイやモカ、そしてユキもそれぞれの家で同じ月を見上げているのだろうと思えた。
ひとつの空の下で、動物も人も同じ光を見ている。
それだけで、心が温まるのだった。




