「冬鳥の訪問者たち」
朝 小さな訪問者
一月の澄んだ空気の朝。
病院の庭の柿の木に、数羽の雀がちゅんちゅんと群れていた。
霜を帯びた枝の上で丸くなり、時折羽をふるわせる。
「先生、鳥が来てますよ」
美咲が窓の外を指差した。
「冬は餌を探して大変だからな。庭の実を食べに来るんだろう」
小さな羽音と鳴き声が、冷たい空気の中に温かさを運んでいた。
午前 ベルと雀の追いかけっこ
最初に来たベルは、待合室に入るなり窓際にぴょんと駆け寄った。
外の雀に気づいたのだ。
「わんわん!」と声を上げ、窓ガラス越しにしっぽをぶんぶん振る。
雀たちは驚いて飛び立ち、また別の枝にとまった。
「ベル、届かないのに~」
女の子が笑う。
ベルはそれでも窓に鼻を押し付け、雀の動きを追い続けていた。
待合室の人たちもつられて微笑む。
午前後半 リクとヒヨドリ
次に来たリクと加藤さん。
待合室の外には、灰色のヒヨドリがひと羽、柿の木にとまっていた。
「リク、見てごらん」
加藤さんが窓を指差す。
リクは首をかしげながら目で追い、やがて「ふぅん」というように小さく鼻を鳴らした。
「犬なりに観察してるんでしょうね」
加藤さんが笑うと、待合室の空気が穏やかになった。
昼 チャイとモカ、シジュウカラの歌声
昼頃、チャイとモカがやってきた。
そのとき庭に現れたのは、黒い頭に白い頬のシジュウカラ。
枝にとまり、澄んだ声でさえずっている。
「わあ、かわいい!」
奥さんが声を上げる。
チャイは窓にぴょんと飛びつき、鳴き声に合わせて吠えようとするが、声が出る前にモカが「やめなさい」と言わんばかりにしっぽを振った。
待合室にいた子どもたちが「シジュウカラっていう鳥なんだよ」と得意げに説明する。
小さな自然教室のような時間が流れた。
午後 ユキと静かな観察
午後に来たユキは、窓辺に座り込んでじっと外を眺めた。
その視線の先には、枝にとまるツグミ。
「ユキは追いかけようとはしないんですね」
美咲が不思議そうに言う。
「ただ眺めているのが好きみたいです」
飼い主さんが答える。
ユキの白い毛並みと、冬鳥の落ち着いた色合いが重なり合い、待合室は静かで清らかな雰囲気に包まれた。
夕方 鳥と動物、人と人
夕方になると、待合室は自然と「鳥の話題」で盛り上がった。
「ベルちゃんは雀を追いかけてたね」
「リクくんは観察タイプ」
「チャイくんは歌に参加しそうだった」
「ユキちゃんは哲学者みたいに眺めてた」
笑い声の中、外の木々にはまた雀が戻ってきて、夕暮れの空に溶け込むように鳴いていた。
夜 鳥たちの余韻
診療を終え、庭を見渡すと、もう鳥たちの姿はなかった。
ただ、枝の上に残った小さな羽毛が風に揺れていた。
「先生、鳥たち、また明日も来ますかね」
美咲が問いかける。
「来るさ。冬の間はここが彼らの食卓だからな」
動物たち、人、そして鳥。
小さな病院の庭は、思いがけず多くの命をつなぐ場所になっていた。




