「ストーブのぬくもり」
朝 冷たい風と温かい光
一月半ば。
朝の空気は頬を刺すように冷たく、病院の前の植木鉢にも霜が降りていた。
「先生、今日はすごく冷えますね」
美咲が手をこすり合わせながら入ってくる。
待合室には、丸い石油ストーブがぽつんと置かれていた。
小さな窓からオレンジ色の炎が見え、ほのかな灯油の匂いと一緒に、じんわりと温かさを広げている。
「この時期はこれが一番だな」
私は火を少し強めてやり、冷え切った空気をゆっくりと温めた。
午前 ベルとぬくぬく時間
最初に来たのはベルと女の子。
「さむーい!」と息を白くして駆け込んでくる。
ベルは待合室に入ると、真っ先にストーブの前に座り込んだ。
しっぽをゆらゆらと揺らし、気持ちよさそうに目を細める。
「ベル、もう動かないんです」
女の子が笑う。
「寒い日にはいい場所がわかるんだな」
ストーブの前で毛並みを温めるベルの姿は、見ているだけでこちらまでぬくもりを感じるようだった。
午前後半 リクとぬくい眠気
次に来たリクも、ストーブの前にちょこんと座った。
「こいつはストーブの前にいると、すぐ寝ちゃうんですよ」
加藤さんが苦笑する。
その言葉通り、診察台で一通りチェックを終えたリクは、待合室に戻るなり丸くなり、ウトウトと船を漕ぎ始めた。
「冬は寝るのが仕事みたいだな」
待合室の飼い主たちが笑い、ストーブの前にはゆったりした時間が流れた。
昼 チャイとモカ、場所取り合戦
昼頃にやってきたチャイとモカ。
チャイは元気いっぱいで「ぼくが先!」と言わんばかりにストーブの前を陣取った。
一方のモカは少し遠巻きに見つめていたが、やがて静かに近づき、チャイの横に腰を下ろした。
「なんだか人間の兄弟みたいですね」
奥さんが笑う。
二匹の間からふわりと白い湯気のような温かさが立ちのぼるようで、見ている人たちも思わず頬を緩めた。
午後 ユキと炎の揺らぎ
午後に来たユキは、ストーブの炎をじっと見つめていた。
白い毛並みがオレンジの光を受け、ほんのりと染まって見える。
「ユキは火が好きみたいで、家でもこたつの前から動かないんです」
飼い主さんが微笑む。
ユキの穏やかなまなざしは、ストーブの炎と同じく、静かに人の心を落ち着ける力を持っているようだった。
夕方 待合室のストーブ談義
夕方、待合室では自然とストーブを囲んで会話が弾んだ。
「ベルちゃん、ずっと動かないね」
「リクくん、気持ちよさそうに寝てる」
「チャイくんとモカちゃん、仲良しだなあ」
「ユキちゃん、炎を見てると哲学者みたい」
笑い声が響く中、ストーブは変わらず静かに炎を揺らしていた。
動物も人も、その前ではみんな同じように頬を緩め、心を解かしていく。
夜 灯が消える瞬間
診療が終わり、ストーブの火を落とすと、カチリという小さな音とともに炎が消えた。
残された温もりだけが、まだ空気の中に漂っている。
「なんだか名残惜しいですね」
美咲がつぶやいた。
「また明日の朝つければいいさ」
病院を出ると、外は澄んだ冷気に包まれていた。
だが胸の中には、今日のストーブのぬくもりが確かに残っていた。




