「鏡餅とみかんと待合室」
朝 お正月らしい贈り物
一月五日。
松の内の時期で、まだ町のあちこちにお正月飾りが残っている。
病院の待合室にも、小さな門松と折り鶴が並び、穏やかな雰囲気を保っていた。
そこへ最初にやってきたのはベルと女の子。
手には小さな紙袋を抱えている。
「先生、これおばあちゃんが持たせてくれたんです」
袋を開けると、中には手作りの小さな鏡餅。
「かわいいな。ありがとうございます」
受付の机に飾ると、待合室がぐっと華やいだ。
ベルはそれを見上げてしっぽを振り、「これなに?」と首をかしげていた。
午前 リクとみかんの匂い
次に来たリクと加藤さん。
「これ、みかんです。お正月にたくさんいただいたので」
袋いっぱいの橙色が、冬の冷たい空気の中であたたかさを放っていた。
待合室に置かれると、ほのかな柑橘の香りが広がる。
リクは興味深そうに鼻を近づけ、すぐに「すっぱい!」という顔をして後ずさった。
待合室の子どもたちが笑い声を上げる。
昼 チャイとモカ、そしてお裾分け
昼頃にやってきたチャイとモカ、ご夫婦も「みなさんでどうぞ」と袋を差し出した。
中には小さなお菓子がいくつも入っている。
「福袋に入ってたんですけど、食べきれなくて」
奥さんが笑う。
待合室のテーブルにお菓子とみかんが並び、まるで小さな正月の寄り合い所のようになった。
チャイは袋の中を覗こうとして注意され、モカはキャリーの中からその様子をじっと見ていた。
午後 ユキと静かなまなざし
午後にやってきたユキは、相変わらず落ち着いた様子で待合室に座った。
子どもたちが「みかん食べよう!」と楽しそうに皮をむく姿を、ユキは静かに見つめている。
「ユキちゃんは食べ物に手を出さないんですね」
美咲が感心する。
「お正月は実家で過ごしたんですが、みんなが餅を食べている横で、ずっと静かに寄り添っていました」
飼い主さんの言葉に、ユキの落ち着いた気配がそのまま伝わるようだった。
夕方 待合室の団らん
夕方には診療がひと段落し、待合室のテーブルにはみかんの皮が積まれていた。
飼い主たちはお菓子をつまみながら、自然と会話を弾ませる。
「ベルちゃんのおばあちゃんの鏡餅、かわいいね」
「リクくん、みかんはちょっと苦手かな?」
「チャイくん、袋を覗いてたでしょ」
「ユキちゃんは本当にお行儀がいいね」
動物たちはそれぞれの場所でしっぽを揺らしたり、飼い主の足元に丸まったり。
人も動物も入り混じりながら、穏やかな空気が漂っていた。
夜 余韻の温かさ
診療が終わり、机の上の鏡餅と、残ったみかんを見て美咲がつぶやいた。
「今日は病院が親戚の家みたいでしたね」
「そうだな。人が集まって笑い合うのも、お正月の大事な風景だ」
外の冷たい夜風に当たりながらも、胸の中にはみかんの甘酸っぱさのような余韻が残っていた。




