「冬支度と白い猫」
朝の冷たい空気
十二月に入ると、朝の空気は一気に冷え込んだ。
「ひだまり動物クリニック」の扉を開けると、吐いた息が白く揺れる。
窓際の植木鉢にも霜が降り、冬の訪れを実感させる。
「先生、おはようございます!」
美咲がストーブを点けながら声をかける。
「今日も予約いっぱいですよ。あ、リクくんが午後に来るって」
老犬のリク。加藤さんとゆっくり散歩する姿は、もうすっかり病院の日常風景の一部になっている。
私は「楽しみだな」と小さくつぶやき、診察の準備を整えた。
白い猫の来訪
午前の診察が落ち着いたころ、若い男性がキャリーケースを抱えて入ってきた。
中からのぞいたのは、真っ白な毛並みの猫。
澄んだ青い瞳でこちらをじっと見つめてくる。
「先生、この子…名前はユキです。最近、食欲がなくて」
男性の声は不安に揺れていた。
ユキは三歳ほどの雌猫。
キャリーから出すと、大人しく診察台に座り、ふわりとした白い毛を膨らませている。
体重は少し落ちているが、熱や異常は見られない。
「大きな病気ではなさそうです。季節の変わり目で体調を崩したのかもしれませんね」
私はそう伝え、食欲を増すサプリと胃腸を整える薬を出した。
男性は安堵の息をつきながら、ユキを優しく撫でた。
「よかった…。実は、ユキは去年の冬にうちに来たんです。雪の日に保護して、それで“ユキ”って名前を」
なるほど――名前の由来に納得した。
寒さの中で出会った命が、今はこうして家族になっている。
その絆を想像すると、心が温かくなる。
午後のにぎやかさ
午後の診察では、すっかりおなじみの顔ぶれが続いた。
チャイとモカの子猫兄弟が夫婦に連れられてやって来て、診察台の上で元気に飛び跳ねる。
「先生、二匹とももう大きくなって…」
夫婦の声は誇らしげだった。
夕方には、加藤さんに連れられたリクも現れた。
冷たい風の中をゆっくりと歩きながら、病院の前で足を止める。
「今日は調子が良くてね。少し長めに散歩できたよ」
加藤さんの言葉に、リクが静かに尻尾を振る。
その姿に、私は自然と頬を緩めた。
白い猫の再来
閉院間際、再びユキと男性がやって来た。
「先生、さっきより元気そうで…ごはんも少し食べてくれました」
男性は笑顔で報告する。
ユキはキャリーの中で、青い瞳を輝かせてこちらを見つめていた。
「よかったですね。この調子ならすぐ回復しますよ」
そう伝えると、男性は深く頭を下げた。
「ユキが来てから、毎年冬が楽しみになったんです。だから、この冬も一緒に元気に過ごしたくて」
その言葉に、私は胸の奥がじんわり温かくなった。
冬の冷たさの中に、動物たちが灯す小さな温もり。
それは確かに、人の心を支えている。
一日の終わりに
夜、診察室を片付けながら、私は机の上のカルテを見つめた。
「ユキ」「チャイ&モカ」「リク」――名前が並ぶカルテたちが、この病院の日々を物語っているようだった。
どんな季節でも、動物たちは飼い主の暮らしに寄り添い、温もりを与えてくれる。
そして、その姿を見守るのが私の役目だ。
窓の外には、街灯に照らされた白い息と、舞い散る落ち葉が見える。
もうすぐ冬本番。
明日もまた、この扉を開けて新しい一日が始まるのだろう。




