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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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冬支度の衣替えと、舞い散るアンダーコート、あるいは被毛の奥に隠された温かな試練

冬支度の衣替えと、舞い散るアンダーコート、あるいは被毛の奥に隠された温かな試練


### 1. 舞い落ちる落ち葉と、フワフワの毛玉


十一月の下旬。京都の街の木々が鮮やかな紅葉のピークを越え、冷たい木枯らしが吹き抜けるような晩秋の午後。

今日の午前、診察室にやってきたのは、もふもふの毛並みがトレードマークの9歳のポメラニアン「ラッキー」君(男の子)と、少し困った様子の飼い主の鈴木さんです。


シニアの域に入ったラッキー君ですが、今日も元気いっぱいに診察台のの上でしっぽを振っています。


「先生、最近すごく寒くなってきた途端、ラッキーの抜け毛が春に負けないくらいまた大量に抜け始めたんです! しかも、耳の後ろや脇の下のあたりに、分厚いフェルト状の『毛玉』がまたできてしまって……。寒さへの冬支度だとは思うんですが、お手入れが追いつかなくて困っています」


診察台の上で、ラッキー君の体を触診すると、冬の寒さを防ぐために生えてきた密な新しい下毛(アンダーコート)と、まだ抜けきっていない古い毛が複雑に絡み合い、皮膚を圧迫する頑固な毛玉を作っていました。


「鈴木さん、すぐにお連れいただき正解です。これは『秋から冬への移行期に見られる、冬毛への換毛期(衣替え)と、それに伴う被毛の絡まり・皮膚の蒸れ』ですね。春の衣替えとは逆に、今度は寒さから体を守るために「重層的な防寒コート」を全身にまとう季節なんです」


### 2. なぜ「秋から冬への衣替え」はトラブルを招くのか


多くの飼い主さんは「寒くなるんだから、モフモフの毛がたくさん生えてくるのは自然で安心」と考えがちですが、現代の暖かい室内で暮らすペットたちにとって、この冬支度にはいくつかの落とし穴があります。


* **「夏毛と冬毛のダブルレイヤー(二重構造)」による密着度アップ:** 秋から冬にかけて、ワンちゃんや猫ちゃんたちは寒さをしのぐために、保温性の高い密なアンダーコート(下毛)を一気に増やします。その結果、古い毛と新しい毛が絡み合い、摩擦によってあっという間に頑固なフェルト状の毛玉へと進化してしまいます。

* **「室内の暖房」と「乾燥」が引き起こす静電気の罠:** 寒さ対策でお部屋の暖房を使い始めると、室内の空気が急激に乾燥します。乾燥した環境では被毛に激しい静電気が発生し、毛同士が磁石のように引き合い、毛玉の形成に拍車をかけてしまいます。

* **「毛玉の下の皮膚炎」の再来:** 春編でもお話ししましたが、皮膚にピタリと張り付いた厚い毛玉は、通気性を奪い、乾燥によるフケや、舐め壊しによる皮膚炎(ホットスポット)を引き起こす原因になります。


### 3. 愛犬・愛猫の冬支度を快適にする「3つの被毛ケア極意」


「ラッキーの体がそんなに分厚い冬毛への衣替えで大変なことになっていたなんて……。冬のブラッシングも、春と同じように気をつけなきゃいけないんですね」と反省する鈴木さんに、僕は冬支度を安全に進めるためのコツをお伝えしました。


1. **「スリッカーブラシ」と「金属コーム」による毎日の根本ケア:** 表面をなでるだけでなく、スリッカーブラシで皮膚の根元から古い毛を優しくすくい出し、仕上げに金属製のコームを通して「引っかかりがないか」を必ずチェックするダブルチェックを毎日の習慣にしましょう。

2. **「静電気防止スプレー(ブラッシングスプレー)」の活用:** 暖房による室内の乾燥や静電気を防ぐため、ブラッシングの前に動物用の保湿・静電気防止スプレーを被毛に軽く馴染ませることで、毛同士の摩擦を減らし、スルスルと気持ちよく毛玉をほぐすことができます。

3. **お散歩やシャンプー後の「完全乾燥」の徹底:** 寒さが増すこの季節、シャンプーや雨上がりのお散歩の後は、どれだけ毛量が多くてもドライヤーの温風と冷風を使い分けながら「皮膚の根元」まで完全に乾かすことが、冷えと皮膚トラブルを防ぐ絶対の鉄則です。


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### 4. すっきりした冬毛と、秋晴れの笑顔


ラッキー君の体にできていた頑固な毛玉は、専用の道具とハサミを使って皮膚を傷つけないよう丁寧にほぐし、カットしました。仕上げに保湿スプレーを馴染ませてブラッシングを行うと、ラッキー君の体は一回りふんわりと軽くなり、ピカピカの美しい冬毛のコートに生まれ変わりました。


「わあ、ラッキーの毛並みがものすごくフワフワになって、ごわつきがすっかりなくなりました! これからは毎日、静電気スプレーを使いながら根元からしっかりブラシを通してあげますね!」

鈴木さんは満面の笑みで、ラッキー君を優しく抱きしめました。


### 5. 晩秋の京都に灯る診察室の明かり


窓の外では、京都の街の紅葉がすっかり散り落ちて冬の足音が近づき、冷たい木枯らしがすべての生き物たちの新しい季節への備えを優しく祝福するように吹き抜けていました。

「先生、お疲れ様です。秋から冬への衣替えって、お部屋の中が毛だらけになるだけでなく、ワンちゃんたちの皮膚や毛並みにとっても大切な準備期間なんですね」

看護師の河野が、スリッカーブラシを丁寧に消毒しながら爽やかに微笑んだ。


「本当にそうだね。古い毛を脱ぎ捨てて、新しい暖かいコートに生まれ変わるための季節。だからこそ、私たちが毎日の丁寧なブラッシングと正しい被毛のケアでその背中を優しくサポートし、ピカピカの笑顔で冬の足音を迎えてあげることが大切なんだよね」


窓の向こうの寒空の下、温かな家々の窓から漏れるオレンジ色の明かりが、静かな夜の道を優しく照らし出していました。

舞い散る大量のアンダーコートと、冬支度の毛玉の奥に潜む乾燥の罠の中に。

確かなブラッシングと、愛を込めた毎日の優しいスキンシップを。

どんなに季節が巡り、寒さ厳しい冬の足音が近づいてこようとも、大好きな家族みんなが笑顔で、いつまでも軽やかな足取りで輝く明日へ歩んでいけるように。

僕たちの動物病院の明かりは、今夜もすべての家族の「美しい被毛と健やかな日々」を、涼やかな風と共に守り続けます。

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