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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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真夏の渇きと、潤いのひとしずく、あるいは隠れ脱水の方程式

真夏の渇きと、潤いのひとしずく、あるいは隠れ脱水の方程式


### 1. 鳴り響く蝉時雨と、ぐったりした喉元


七月の下旬。京都の街全体がまるで巨大なサウナのように熱気と湿気に包まれ、日中は一歩も外に出られないほどの猛暑が続く午後。

今日の午前、ぐったりとしたトイ・プードルの「クウ」君(13歳・男の子)を抱えて、飼い主の渡辺さんが慌てて診察室に駆け込んできました。


「先生、ここ数日すごく暑い日が続いているんですが、クウがなんだかお水をあまり飲まなくなってしまって……。食欲も少し落ちている気がして、さっきお口の中を触ったら、なんだかベタベタして乾いているんです! お散歩もしていないのに、どうしてこんなにぐったりしてしまっているんでしょうか」


診察台の上で、クウ君は少し浅い呼吸をしながら、潤いの失われた目で天井を見上げています。皮膚の弾力を確かめるツジテストを行うと、皮膚が元の形に戻るまでに時間がかかり、体内の水分が大きく不足しているサインが見られました。


「渡辺さん、すぐにお連れいただき正解ですね。これは『真夏の高温多湿による、シニア犬の隠れ脱水(夏季脱水症)』です。外に出ていなくても、お部屋の中でエアコンの冷気に包まれながら、知らず知らずのうちに体内の水分と電解質が奪われていってしまったんです」


### 2. なぜ「真夏の室内」でシニアの体は乾き切るのか


多くの飼い主さんは「エアコンが効いた涼しい部屋にいるんだから、水分不足になんてならないだろう」と油断しがちですが、シニアの体には夏特有の過酷なメカニズムが働いています。


* **シニア特有の「喉の渇きを感じるセンサー」の衰え:** 高齢になると、脳にある「喉が渇いた」という感覚をキャッチする中枢の働きが鈍くなります。そのため、本当は体が水分を欲していても、自分から進んでお水を飲みに行くことができなくなってしまいます。

* **エアコンによる「不感蒸泄(ふかんじょうせつ)」の隠れた増加:** 夏のエアコンの除湿機能や冷房は、お部屋の空気を想像以上に乾燥させます。呼吸や皮膚の表面から絶えず水分が蒸発し続けるため、じっとしているだけでも体内の水分がどんどん失われていきます。

* **脱水が引き起こす「腎臓と心臓への致命的なダメージ」:** 体内の水分が不足して血液がドロドロになると、老廃物をろ過する腎臓への血流が激減し、シニアの腎機能を一気に悪化させます。さらに心臓や脳への負担も跳ね上がり、熱中症や急性腎不全の引き金になります。


### 3. 愛犬・愛猫を夏の脱水から守る「3つの潤い作戦」


「クウがあんなに脱水していたなんて……。お水は置いてあるのに、自分から飲まないからってそのままにしておいた私が本当に情けないです」と悔やむ渡辺さんに、僕は効果的な水分補給の方法をお伝えしました。


1. **ペット専用「経口補水液(ポカリスエット・ペットスエット等)」の活用:** ただの水道水ではなく、体液に近いミネラルと糖分バランスで作られた「ペット専用の経口補水液」を飲ませてあげましょう。水よりも体にスッと吸収されやすく、味がついているため水分を嫌がるシニアでも喜んで飲んでくれます。

2. **お水に「美味しい香り」をトッピングする工夫:** いつものお水の中に、無塩の茹で汁(ササミや白身魚のスープ)を数滴垂らしたり、少しだけ人肌に温めたりして、香りを立たせることで「飲む楽しさ」をもう一度思い出させてあげましょう。

3. **「シリンジ(注射器型のスポイト)」を使ったこまめな水分補給:** 自分でお椀から飲むのが難しいほど弱っている場合は、動物用のシリンジを使って、口の脇から少量ずつ(1回につき数ミリリットルずつ)優しくお口の中に水分を流し込んであげるのが最も確実で安全な方法です。


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### 4. 潤う喉と、元気な尻尾


クウ君には、皮下点滴ですみやかに水分と電解質を補給するとともに、美味しく飲めるペット専用の経口補水液をお渡ししました。診察室で少しずつ水分が行き渡ると、クウ君の目にみるみる力が戻り、しっぽをパタパタと振って渡辺さんの手に顔をスリスリと擦り寄せました。


「わあ、クウの目がパッチリ開いて、お顔の色が全然違います! お家に戻ったら、この補水液を少しずつ飲ませて、これからは毎日の水分量をしっかり管理してあげますね!」

渡辺さんは安心した笑顔で、クウ君の小さな体を優しく抱きしめました。


### 5. 真夏の夕暮れに灯る診察室の明かり


窓の外では、京都の真夏の強烈な夕陽が西の山々へと沈みかけ、アスファルトの熱気が少しずつ和らいで夜の帳が降りようとしていました。

「先生、お疲れ様です。夏の暑さって、直射日光だけでなく、お部屋の中で知らず知らずのうちに水分を奪う隠れた脱水まで連れてくるんですね」

看護師の河野が、経口補水液のボトルを棚にしまいながら静かにつぶやいた。


「本当にそうだね。目に見えないからこそ、私たちが先回りして、彼らの乾いた喉と体を潤してあげること。それが、この過酷な夏の暑さを乗り切るための最高のエールなんだよね」


窓の向こうの夏景色の中、温かな家々の窓から漏れるオレンジ色の明かりが、静かな夜の道を優しく照らし出していました。

エアコンが効いた室内の隠し罠と、お水を忘れてしまうシニアの小さな我慢の中に。

確かな電解質と、愛を込めた毎日の優しい潤いを。

どんなに夏の暑さが厳しく、身を焦がすような日差しが続こうとも、大別の家族みんなが笑顔で、いつまでも潤いに満ちた健やかな日々を紡いでいけるように。

僕たちの動物病院の明かりは、今夜もすべての家族の「心と体の潤い」を、涼やかな風と共に守り続けます。

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