「初雪の窓辺で」
初雪の朝
十二月のある朝、病院へ向かう途中で冷たい風に顔を打たれた。
空はどんよりと曇り、時おり白いものが舞い落ちている。
「先生、おはようございます!」
玄関先で掃除をしていた美咲が、空を見上げながら声をかけてきた。
「雪ですね。ほら、屋根にうっすら積もってます」
見上げると、病院の屋根に薄い白いベールがかかっていた。
今年初めての雪。寒さは厳しいが、どこか心が弾む瞬間だった。
午前 ベルの雪遊び
最初に来たのはベルと女の子。
ベルの背中はうっすら濡れていて、小さな氷の粒が毛に残っていた。
「公園で雪遊びしてきたんです!」
女の子が嬉しそうに話す。
診察台に乗せると、ベルはしきりに体を振り、雪を飛ばそうとする。
聴診器を当てると心臓は元気に動き、体調も問題なさそう。
「ベル、初雪記念日だな」
そう言うと、女の子は「日記に書いておきます!」と笑顔を見せた。
午前後半 リクの雪嫌い
次にやってきたリクは、加藤さんの腕の中でブルブル震えていた。
コートは着ていたが、足先は冷え切っている。
「雪が降るたびに歩かなくなっちゃって……」
加藤さんが困った顔をする。
診察台に乗せても、リクはしっぽを丸めて不安そうにしていた。
私は足を拭きながら「寒さが苦手なんだな。でも防寒を工夫すれば大丈夫だ」と伝えた。
「ベルちゃんとは正反対ですね」
美咲が笑うと、待合室の飼い主たちも頷き合い、自然と温かい空気になった。
昼 チャイとモカの雪見
昼頃に来院したチャイとモカ。
ご夫婦がキャリーを開けると、二匹は窓際にぴょんと飛び乗った。
外には静かに雪が舞い降りている。
チャイはしっぽを膨らませ、興味津々でガラス越しに鼻を押し当てる。
モカは少し離れた場所で、降りしきる白をじっと見つめていた。
「チャイは好奇心旺盛で、モカは慎重派なんです」
ご夫婦が笑いながら説明する。
その姿はまるで、子どもと大人の反応の違いを見るようで、私も美咲も思わず微笑んだ。
午後 ユキと雪景色
午後、ユキがやってきた。
白い毛並みと雪が重なり、病院の前に立つ姿は風景の一部のように見えた。
診察台に乗ると、ユキは窓の外に視線を向けたまま動かない。
雪を見つめるその横顔は、まるで長い冬を知っているかのような落ち着きがあった。
「ユキは雪の中でも堂々と歩くんですよ」
飼い主さんが誇らしげに話す。
待合室の人々も、その凛とした姿に思わず見入っていた。
夕方 雪の待合室
夕方、外はさらに雪が強まり、窓の外は真っ白になった。
待合室に集まった動物たちは、ベルの雪遊びの話、リクの雪嫌い、チャイとモカの雪見、ユキの堂々とした姿――
それぞれの「初雪の物語」を持ち寄っていた。
「雪の日も、みんな違う反応で面白いですね」
美咲の言葉に、飼い主たちも「うちの子はこうなんですよ」と楽しげに語り合う。
病院は診療の場であると同時に、動物たちの小さなエピソードを分かち合う場所でもあると改めて感じた。
夜 雪明かりの下で
診療を終え、外に出ると一面の雪が街灯に照らされ、やわらかく輝いていた。
踏みしめるたびに雪がきゅっきゅっと音を立てる。
「初雪って、やっぱり特別ですね」
美咲が息を白くしながらつぶやく。
「動物たちにとっても、一つの記念日だからな」
病院に来た子たちの表情を思い出しながら、私は雪空を見上げた。
白い世界の中で、それぞれの温かさが輝いているように感じられた。




