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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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春の換毛期と舞い散る雪、あるいは被毛の衣替えに隠された罠

春の換毛期と舞い散る雪、あるいは被毛の衣替えに隠された罠


### 1. 舞い散るアンダーコートと、赤い皮膚


四月下旬。京都の街の木々が青々とした新緑を湛え、ぽかぽかとした陽気が心地よいお昼下がり。

今日の午前、診察室にやってきたのは、もふもふの毛並みが自慢のポメラニアン「ポコ」君(4歳・男の子)と、少し困った様子の飼い主の山本さんです。


「先生、最近すごく暖かくなった途端、ポコから信じられないくらいの量の抜け毛が毎日舞い散るようになって……。毎日ブラッシングしているんですが、背中のあたりに大きなフェルト状の『毛玉の塊』ができてしまって、その下をめくったらなんだか皮膚が赤くただれているんです!」


診察台の上で、ポコ君はモフモフの毛を少し膨らませながら、痒そうに後ろ足で自分の体を掻こうとしています。フェルトのように固まったアンダーコート(下毛)の根元を観察すると、通気性が完全に遮断されたことで湿気がこもり、赤く湿った皮膚炎(ホットスポット)が広がっていました。


「山本さん、よく気づいてくださいました。これは『春の換毛期による大量の抜け毛と、隠れた蒸れによる皮膚炎(湿潤性皮膚炎)』ですね。冬の寒さをしのぐためにまとっていた厚手のコートを、春の陽気に向けて脱ぎ捨てるこの季節、ワンちゃんたちの被毛と皮膚には大きな負担がかかっているんです」


### 2. なぜ「春の換毛期」は皮膚のトラブルを招くのか


多くの飼い主さんは「毛が抜けるのはただの衣替えだから自然なこと」と捉えがちですが、現代の室内飼いの環境では、この換毛期がトラブルに直結しやすくなります。


* **「抜け落ちた毛」が新しい毛と絡み合うトラップ:** 春の換毛期には膨大な量のアンダーコートが抜けますが、それがそのまま被毛の中に残ってしまうと、毎日の摩擦や静電気によってフェルト状の「頑固な毛玉」へと進化してしまいます。

* **毛玉が作り出す「湿度のサウナ状態」:** 皮膚にピタリと張り付いた厚い毛玉は、外からの風や空気を完全にシャットアウトします。そこに春の暖かさとペット自身の体温が加わることで、毛玉の下は常にジメジメとしたサウナ状態になり、雑菌やマラセチアが爆発的に繁殖します。

* **「見えない痒み」と掻き壊しの連鎖:** 毛玉が皮膚を引っ張る物理的な不快感と、蒸れによる激しい痒みから、ワンちゃんたちは同じ場所をしきりになめたり引っ掻いたりし、一晩で皮膚を自ら傷つけてしまいます。


### 3. 愛犬の被毛と皮膚を守る「3つのブラッシング極意」


「ポコがあんなに分厚い毛玉の下で苦しんでいたなんて……。これからの換毛期、どうやって正しいお手入れをしてあげればいいでしょうか」と反省する山本さんに、僕は自宅でできる安全な被毛ケアをお伝えしました。


1. **「スリッカーブラシ」と「コーム(櫛)」の二刀流:** 表面をなでるだけでなく、まずはスリッカーブラシで根元の古いアンダーコート優しくすくい出し、仕上げに金属製のコームを通して「引っかかりがないか」を必ず確認するダブルチェックを行いましょう。

2. **すでにできてしまった「頑固な毛玉の切り方」:** 皮膚に張り付いた硬い毛玉を無理に引っ張ると、皮膚を一緒に引き裂いて大怪我をさせてしまいます。毛玉の根元を指でしっかり押さえ、専用の毛玉ほぐしやハサミ(先端が丸いトリミング用)を使って、皮膚を傷つけないよう「縦方向」に細かく割いてから解きほぐしましょう。

3. **お散歩後やシャンプー後の「完全乾燥」の徹底:** 春のシャンプーの後は、どれだけ毛量が多くても、ドライヤーの温風と冷風を使い分けながら「皮膚の根元」まで完全に乾かすことが、次の毛玉や蒸れを防ぐ絶対の鉄則です。


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### 4. すっきりした毛並みと、春色の笑顔


ポコ君の背中の毛玉は丁寧にカットされ、蒸れて赤くなっていた皮膚には、痒みを鎮めるお薬と保湿ローションが優しく塗布されました。処置が終わる頃には、ポコ君の体が一回りスッキリ軽くなり、嬉しそうにしっぽをブンブンと振って山本さんに飛びつきました。


「わあ、ポコがすごく軽やかになって、背中のごわつきもすっかりなくなりました! これからは毎日根元からしっかりブラシを通して、毛玉を作らないようにしてあげます!」

山本さんは満面の笑みで、ポコ君を優しく抱きしめました。


### 5. 新緑の京都に灯る診察室の明かり


窓の外では、春の柔らかい陽光が京都の新緑を美しく照らし出し、心地よい風がすべての命の衣替えを優しく祝福するように吹き抜けていました。

「先生、お疲れ様です。春の抜け毛って、お部屋の中が毛だらけになるだけじゃなく、ワンちゃんたちの皮膚にとっても大きな試練の季節なんですね」

看護師の河野が、スリッカーブラシを丁寧に消毒しながら爽やかに微笑んだ。


「本当にそうだね。古いコートを脱ぎ捨てて新しい自分に生まれ変わるための季節。だからこそ、私たちが毎日の丁寧なブラッシングと正しい被毛のケアでその背中を優しくサポートし、ピカピカの笑顔で春の風の中を駆け抜けさせてあげることが大切なんだよね」


窓の向こうの青空の下、柔らかい春の陽光がすべての命の躍動を優しく包み込み、街全体が温かな笑顔と希望に満ち溢れていました。

舞い散る大量のアンダーコートと、毛玉の奥に潜む蒸れの罠の中に。

確かなブラッシングと、愛を込めた毎日の優しいスキンシップを。

どんなに季節が巡り、たくさんの抜け毛が舞い散る季節がやってきても、大別の家族みんなが笑顔で、いつまでも軽やかな足取りで輝く春の小道を歩いていけるように。

僕たちの動物病院の明かりは、今夜もすべての家族の「美しい被毛と健やかな日々」を、心地よい風と共に守り続けます。

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